「退避経路は断絶?」台湾有事シナリオの盲点 通信が途絶え、現地での機微情報の接収リスクも

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情報管理の点ではどうだろうか。

従業員の退避と同様に、技術情報や研究情報などの機微情報をどのタイミングで退避させるか。印字された文書などの情報の退避はどうすべきか。データの場合、有事における国外へのデータ移送は可能だろうか。印字情報の退避が不可能な場合、流出を防ぐために積極的な破棄も検討しなければならない。

現地駐在員の退避と同様に、“情報の退避”、も検討されるべき要素だ。この際、アセット(現地法人社屋や関連施設、データセンターなど)の接収・破壊などは想定できているだろうか。

国防動員法への懸念

また、中国の国防動員法は想定されるべきリスクだ。同法は、有事の際に民間企業や国内外に居住する中国民に対して、政府の統制下に服する義務を課している。国防義務の対象者は、18歳~60歳の男性、18歳~55歳の女性で中国国外に住む中国人も対象となるため、中国現地法人の中国人従業員が同法に基づいて予備役として徴用されるほか、日本に所在する企業の中国人従業員も徴用される。この際、中国から見れば日本は“敵国”に映る。

また、同法は備蓄物資が国防動員の需要を延滞なく満たすことができなくなったときは民生用資源を徴用できるとし、企業や個人が所有する資源は接収されてしまう。この資源は、物資、施設などが想定されるが、生産設備や物流のための自動車なども対象になる。

さらに、金融、交通運輸、郵政、電信、医薬衛生などの多くの業種を管制下に置くとし、例えば日系企業の金融資産接収や口座凍結なども考えられ、カネの動きが寸断される可能性もある。

台湾有事への備えでは、人や情報の退避に加え、当然ながらサプライチェーンの寸断や制裁の応酬など、ヒトやモノに限らずカネの動きも含め多くの要素が検討されなければならない。

ちなみに、台湾有事の際には、日本における避難行動による渋滞、抗議デモの過激化など多くの混乱が見られることも想定される。台湾有事に伴う影響は、中国・台湾に進出する企業だけではないのは言うまでもない。

台湾有事リスクについていたずらに危険を煽るつもりはないが、危機管理において“備える”ことは当然であり、必須だ。激動の国際情勢において、企業が想定すべきリスクは拡大の一途をたどっている。

稲村 悠 Fortis Intelligence Advisory株式会社代表取締役

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いなむら ゆう / Yu Inamura

Fortis Intelligence Advisory株式会社代表取締役、(一社)日本カウンターインテリジェンス協会代表理事、外交安全保障アカデミー「OASIS」講師。1984年生まれ。東京都出身。大卒後、警視庁に入庁。刑事課勤務を経て公安部捜査官として諜報事件捜査や情報収集に従事。警視庁退職後は、不正調査業界で活躍後、大手コンサルティングファーム(Big4)にて経済安全保障・地政学リスク対応に従事した。その後、Fortis Intelligence Advisory株式会社を設立。経済安全保障対応や技術情報管理、企業におけるインテリジェンス機能構築などのアドバイザリーを行う。また、一社)日本カウンターインテリジェンス協会を通じて、スパイやヒュミントの手法研究を行いながら、官公庁(防衛省等)や自治体、企業向けへの諜報活動やサイバー攻撃に関する警鐘活動を行う。メディア実績多数。著書に『企業インテリジェンス』(講談社)、『防諜論」(育鵬社)、『元公安捜査官が教える 「本音」「嘘」「秘密」を引き出す技術』(WAVE出版)。
X: https://twitter.com/yu_inamura_spy
公式サイト: https://www.japancia.com/

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