東京電力を格下げ、引き続き格下げ方向での見直しを継続《ムーディーズの業界分析》
主任格付けアナリスト/VPシニア・アナリスト
岡本 賢治
ムーディーズは6月20日、東京電力株式会社(東京電力)のシニア有担保格付けをBaa2からBa2へ、長期発行体格付けをBaa3からB1へ格下げし、新たにコーポレート・ファミリー・レーティング(注)Ba3を付与したことを公表した。引き続き、格下げ方向での見直しを継続する。本邦法令上の格付け付与日は6月20日である。
格付け理由
今回の格下げは、福島第一原子力発電所の事故による費用と損害額が増加していること、ならびに東京電力に対する政府の支援策において、債権者が損失負担をしないように完全には保護されないかもしれないとの懸念が増大していることを反映している。
前回の格下げ以後、東京電力は3つの原子炉にメルトダウンが起こり、格納器に損傷が発生したことから、以前に考えられていたよりも被害の状況が深刻であることを発表した。また、放射性物質による汚染は当初の想定よりも広範囲であると判明した。原子炉が冷温安全停止状態になるのは2012年になると想定され、それまでは対策費用は増加し続けるであろう。
また、損害賠償に関しては、政府からの支援がなければ、東京電力単独での負担能力を超えていると考えている。支援策である「原子力損害賠償支援機構法」は閣議決定・国会提出されたものの、現在の政治的な状況では、国会において迅速な決定ができない可能性もある。また、新たに設立される損害賠償支援機構などによって決定されると思われるいくつかの重要事項の明確化も遅延すると考えられる。
重要事項とは、たとえば、原子力事業者が納める負担金の額や、損害賠償金が東京電力の財務諸表に計上される方法、東京電力がこの新機構に特別負担金を納める期間とムーディーズは考えている。このため、債権者が何らかの譲歩を強いられる可能性が否定できないと考えられる。
一方、国内最大の電力会社であるという東京電力の役割と重要性を鑑みれば、支援策は最終的には決定されるであろう、とムーディーズは見ている。
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