東京電力を格下げ、引き続き格下げ方向での見直しを継続《ムーディーズの業界分析》

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万が一、支援策が可決されないことがあれば、何らかの私的な債務整理や裁判所による法的な手続きに移る可能性が想定され、格付けはさらに数ノッチ下がるであろう。この場合、数兆円に上ると考えられる賠償金支払いのために、政府からの迅速かつ強固な経済的支援が得られなければ、東京電力は財務的窮地に陥るであろう。

なお、支援策が迅速に決定、施行される場合でも、東京電力のフリーキャッシュフローの大部分は損害賠償支援機構に対する特別負担金の支払いに回され、東京電力は、長期間にわたり、財務的に脆弱な状態に置かれるであろう、とムーディーズは予想している。

今回の震災により、東京電力は4262億円(52億ドル)の福島第一原子力発電所の冷却等に関する費用と、2070億円(25億ドル)の4原子炉の廃止に関する費用等を合わせて、1兆0204億円(124億ドル)の特別損失を計上した。この特別損失の計上等により、自己資本は前年度の2兆4657億円から2010年度は1兆5581億円にまで減少した。

さらには、夏季の数カ月間、東京電力は、需要増に対応すべく代替電力獲得のためのコスト増に直面するであろう。加えて、東京電力は、福島第一原子力発電所の安定化や原子炉を廃止するために、追加的なコストを負担しなければならない可能性もある。このため、増加したコスト構造を反映した電気料金の値上げを行うまでは、大幅な営業損失を計上するおそれがあることをムーディーズは懸念している。しかしながら、価格引き上げに関する規制と厳しい経済環境の下では、東京電力にとって、十分なコスト転嫁を迅速に行えるかは不透明である。

このようなことから、東京電力の自己資本は大きく圧迫されるであろう。さらには、損害賠償費用では総額の見通しは立っていない。この費用は、東京電力の財務諸表には、現時点では負債としては認識されていない。

シニア有担保格付けと長期発行体格付けが2ノッチに広がったことは、デフォルトが発生した場合における回収の可能性が社債権者のほうが他の債権者に比して高いと考えていることを反映している。また、原発事故の損害負担は、無担保であるという点も考慮している。

格付けの見直しの継続は、今回の法案の国会での採択の見通しが不確かであり、東京電力の損害賠償の総額を正確に予想することが困難であることによる。

格下対象の格付け:
シニア有担保格付け Baa2からBa2
長期発行体格付け Baa3からB1

今回新たに付与された格付け:
コーポレート・ファミリー・レーティング Ba3

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