SMBC日興「相場操縦事件」、早期決着方針の歪み 相次ぐ証言の撤回、元従業員による訴訟提起も
同取引では政策保有株や創業者の保有株など大口投資家の株式を証券会社がいったん買い取り、個人投資家に売却する。大口投資家は株価へのインパクトを抑えたまま株式を売却でき、個人投資家は市場価格より安く株が買える。証券会社も買い取り価格と売却価格の差額で収益を得られる。
問題は一部の個人投資家が対象銘柄をカラ売りし、取引当日の株価急落が頻発したことだ。株価急落を食い止めようと、SMBC日興は自社の資金で対象銘柄を買い付けたが、その行為が違法となる「安定操作」とされた。
(詳細は2023年2月14日配信『SMBC日興「有罪」でも相場操縦事件は終わらない』に)
検察側の主張や調書によれば、元副本部長も従来、ブロックオファーの対象となった株をSMBC日興の資金で買い付けた理由は、「株価の下落を止めるため」だと証言していた。
ところが「現在の記憶」として、「売買で利益を得るためだと理解した」「従来から説明は変えていない」と証言を翻した。検察官が何度問いただしても答えは変わらなかった。
2022年の裁判時点で起訴内容を争わなかった理由に関しては、裁判が始まる前の公判前整理手続きの時点から「辟易していた。裁判を早く終えて、働きたかった」と答えた。起訴された2022年3月末以降、会社との契約が更新されておらず、事実上の解雇状態だった。
捜査途中に証言を変えたケースも明らかに
「証人は涙を出さないように」――。
検察官の冷静な指示が法廷に響き渡った。2023年9月の証人尋問中のことだ。証言に立っていたのはSMBC日興の現役社員。事件についての調査中に亡くなった同僚とのやりとりについて検察官から問われ、思わず声を詰まらせた。
この社員は事件当時、SMBC日興が自己資金で株式を売買して収益を上げるための組織、エクイティ部のエクイティ・トレーディング課で勤務していた。
ブロックオファーには社内の幅広い部署が関連していた。まずは法人営業部門。実際に取引が行われた日から逆算して約3カ月から2カ月前までに、株式を売りたがっているという顧客の意向が同部門を経由して入ってくる。
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