SMBC日興「相場操縦事件」、早期決着方針の歪み 相次ぐ証言の撤回、元従業員による訴訟提起も
法廷での元副部長の証言によると、相場操縦と疑われている取引について当初から違和感があり、上司にも違法性はないのか確認していた。しかし、上司からは「問題ない」と言われ、それを信じて仕事をしていたところ、懲戒解雇されてしまったのだという。
元副部長も捜査段階の調書とは違う証言をしている。ブロックオファーについての会議に誰が出席したか検察官に問われ、捜査段階では個人の名前を証言していたが、法廷では「そもそも誰が出席していたのか覚えていない」と答えた。
その理由については「(調書は)検事さんが用意したものにサインする。自分が直してほしいと言ったところが直してもらえない。細かいところまで訂正してもらえる状況ではなかった」と説明した。
刑事責任に問われなかった元副部長を解雇したのはなぜなのか。東洋経済はSMBC日興にあらためて問い合わせたが「個人に関わる個別のご質問については回答を差し控える」との回答があっただけだった。
事業への長期的な影響は抑制したが
会社としてのSMBC日興は、法廷で近藤雄一郎社長が一連の事件を認めて謝罪、先述したように2023年2月に有罪判決が確定した。罰金7億円と追徴金44億7000万円が課された。
また、金融庁からは一部業務の停止などの行政処分を受けたほか、東京証券取引所と日本証券業協会からはそれぞれ過怠金3億円の処分を受けている。
SMBC日興は相場操縦事案の関連で約57億円の特別損失を2023年3月期に計上。純営業収益への影響額も300億円以上に及んだことで、一気に398億円の最終赤字に転落した。
複数の関係者によれば、会社側と有罪判決を受けた元副本部長は、起訴されてからしばらくは争う方針だったようだ。だが、いつしか法令違反を認める方針に切り替わり、現在も続いている幹部5人の裁判と分離された。
SMBC日興がもし起訴内容を認めていなければ裁判が長引き、収益上の影響はさらに膨らんでいた可能性がある。ただ、会社側として相場操縦の成否を争わなかったことで、検察側の証拠はそのまま採用され、起訴された6人の被告や元副部長は反論の機会がないまま職を失った。
事態の収束を急いだ判断が本当に正しいものだったのか。年明け以降に始まる弁護側の証人や被告人ら本人への尋問は、事件を受けた会社側の対応にも重い問いを投げかけることになりそうだ。
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