収集作業に密着、粗大ごみをどうリユースするか 愛知県豊田市 きっかけは清掃職員の一言から

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収集時には粉砕の音が大きく響くため、住宅地では「うるさい」と言われることもある。また、粉砕時にほこりが舞う時もあり、「車にかかったらどうしてくれるのか」というクレームも来る。

ソファーを積み込む様子とベッドマットでホコリの悲惨を防ぐ様子
左:2人がかりで大きなソファーも清掃車に積み込む/右:排出されたベッドマットで、ほこりの飛散を防ぐ工夫をしていた(写真:筆者撮影)

そのため職員は排出物で投入口をカバーし、限りなくほこりが飛散しないように心掛けていた。涙ぐましい努力だ。

ほとんどがルールどおりに排出されているが、中にはそうでないケースもある。予約したが出していない、予約時の申請とは別のものが排出されている、手数料シールが過少である、タンスの引き出しを開けると服がたくさん入っている、食洗器の中に食器がびっしりと入っている、といったケースもある。

また、粗大ごみを見て「リユースは難しい」と職員が判断し、収集車で粉砕していると、排出者が慌てて家から出てきて、「なぜリユースしてくれないの」と言って泣き出されたこともある。あくまでも粗大ごみの収集なので、絶対にリユースを希望するのであれば、リサイクルショップへ持ち込んでもらうしかないのだ。

清掃業務に新たな付加価値を

リユース工房で2022年度に再使用された粗大ごみの総重量は6,958kgであり、収集される量の2日分にも満たない量である。また、売上金額は1,564,600円であり、それによりリユース工房の人件費や運営費が全て賄えるわけではない。

しかし、リユース工房は、モノを大切に使う意識の啓発や、ごみ減量・リユースへの理解増進に寄与し、数では計測できない価値を提供し資源循環社会の構築に貢献している。また、創造される価値には、廃棄物を通じた高齢者の社会参加や雇用、やりがいなどがある。

清掃行政でイメージされるのは、ごみ収集、処理、処分であり、他の部署と連携せず、いわば閉鎖的な工程で完結する流れである。組織内の他の部署からは見えにくく、いくら丁寧な仕事をしても認知されず、「誰でもできる単純作業」といったイメージでしかとらえられない。

リユース工房のように、清掃が他の部署や団体とコラボして新たなサービスを創造していけば、組織内における清掃部門の認知度は向上し、必要不可欠な業務を担う部署と捉えられていくようになる。

筆者は、廃棄物を横串にして様々な主体をつなげて新たな付加価値のある行政サービスを創出するのが今後の清掃行政であると展望している。

リユース工房のような資源循環を目的にした多主体が関わる取り組みが、今後の清掃行政のあり方のモデルになると思えてならない。リユース工房をヒントにした取り組みが全国的に実践されていくことを期待している。

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藤井 誠一郎 立教大学コミュニティ福祉学部准教授

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ふじい せいいちろう / Seiichiro Fujii

1970年生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程修了。博士(政策科学)。同志社大学総合政策科学研究科嘱託講師、大東文化大学法学部准教授などを経て現職。専門は地方自治、行政学、行政苦情救済。

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