小室直樹の著作が続々と復刻されるのはなぜか 「伝説の学者」の主著から思考の根源に迫る

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なぜ、いま、小室の著作(以下、「小室本」)の復刊が続いているのか。その理由の一端を明らかにしたい。

かつて、小室は「近代資本主義とは何か」について講演する際、次のように説いた。1980年代前半の講演の記録からで、少し長くなるが、以下に紹介したい。

講演録「近代資本主義とは何か」

なぜ、近代資本主義が誕生したか。
これについて最も素朴な考え方は「技術が進歩したからだ」という説。これを技術史観という。テクノロジーが近代資本制社会を作った、と。たとえば、マルクスの『哲学の貧困』を読むと、そんなふうに読み取れなくはない。
「手押し車が封建制社会をつくり、蒸気機関が資本制社会をつくった」と。さらに「原子力が共産主義社会をつくるのだ」とまではマルクスは言っていない(笑)。
この技術史観はいかにも浅薄だ。単なる技術というものに着目すると、近代資本制社会ができる直前の状態にあった社会は多いが、結局そうはならなかった。
それから、技術が独立に発達するのではなく、資本制社会の要請によって発達するという側面が大変強い。たとえば、英国に行くと国中に運河が張りめぐらされていることに驚く。その理由をゼミで学生に質問すると、「英国には山がないから」なんて言う人もいる(笑)。まぁ、それも1つの理由ではある。
しかし、最大の理由は、英国においては産業革命以前に資本主義が発展したからだ。資本主義といえば、「厖大な商品の集積」(マルクス)。ところが、馬や人間では運べない。だから、英国中に運河が張りめぐらされることになった。
厳密に言うと、産業革命の発展と資本主義の発展というのは、手を携えて進んだというべきであろう。
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