小室直樹の著作が続々と復刻されるのはなぜか 「伝説の学者」の主著から思考の根源に迫る

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近代資本主義の誕生についての2番目の説は何か。
それは、「商業の発達が資本主義社会を作った」という説である。これは単なる常識としてではなく、偉い学者にもこの説をとる人が多い。
たしかに商業の発達が近代資本主義の生成と発展に与えた影響は、非常に大きい。数学の言葉をもってすれば、商業の発達は、資本主義が誕生の必要条件である。発達した商業がなければ近代資本主義社会は出現困難である。

近代資本主義社会を生み出す要因は

では、十分条件か。これが実に大問題なのである。
社会学者のマックス・ヴェーバーは「そうじゃない」という。いろんな歴史を調べてみると、単なる商業の発達からは資本主義社会は生まれてこない。古代バビロニア、古代アッシリア、古代ローマ、中世サラセン帝国、中世イタリア、中世ドイツ……。
商業がきわめて発展し、見かけ上は資本主義社会の一歩手前までいった社会はいくつもあった。しかし、そのような社会が資本主義社会になることはなく、途中でしぼんでしまった。したがって、商業の発達は重要な要素だが、それだけで近代資本主義社会が誕生することはない。
ここで考えるべきことは何か。
技術だとか、商業だとか、その他、諸々の条件、それよりももっと大事な、近代資本主義社会を生み出す要因は何であるのか。こういうことになる。
その場合に考えるべき非常に重要なことは、エトス(Ethos)における根本的な変化なのである。
エトスとは何か。英語で書くと、エシック(ethic)。「s」を付ければ「倫理(ethics)」という意味になるが、エトス、エシックとは、倫理なども含めた基本的行動様式のこと。つまり、社会にいろんな行動様式があるが、その中で最も基本的となる行動様式。倫理よりももう少し広い。生き様みたいなものだ。
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