小室直樹の著作が続々と復刻されるのはなぜか 「伝説の学者」の主著から思考の根源に迫る
小室の凄さは、直観力レベルの洞察にとどまらない点である。
小室は、よく「自分は方法論学者(methodologist)である」と自己規定した。そのとおりに、小室は先行する学者、研究者の優れた理論的成果を学び尽くし、それら方法論を小室流に整理して、体系化し、分析枠組み(frame of reference)を作り上げた。
小室によって体系化された社会分析のための枠組みは、現時点においてもそのまま通用する。その分析枠組みをもとに、小室はさまざまな「モデル」を作り上げて、具体的な社会的現象を分析した。小室の理論モデルをもって眺めれば、複雑に絡み合ったように見える社会現象がスッキリと分析、整理され、説明できるのである。
約半世紀前に見抜いた日本社会崩壊のモデル
『危機の構造』を例にとろう。確かに、そこで例示されているのはロッキード事件や、企業爆破の狼グループの話など、1970年代の出来事である。いかにも古い。しかし、そこで示された理論、モデルは決して古くない。
小室は同書において、戦後の日本社会の構造を次のように分析した。
戦前の日本社会を上から支えていた天皇共同体が日本の敗戦と天皇の人間宣言によって一気に崩壊、下から支えていた村落共同体も徐々に崩壊し、その結果、日本社会にアノミー(無連帯)が蔓延した。
そのアノミーを吸収し、日本人の連帯を回復させたのは、本来、機能集団であるべき会社、官庁、学校などであった。会社、官庁、学校等が共同体化した結果、いったんアノミーは収まるであろう。
しかし本来、共同体であってはならない機能集団が共同体となってしまったというその根本的矛盾が、日本社会を崩壊に導くことになる。これが小室のいう戦後日本の構造的アノミーである。この戦後日本社会の構造的分析、日本社会崩壊モデルの提示。これこそ小室直樹の凄さだ。
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