SONY成功の裏にあったアメリカでのイメージ戦略 日本からの輸入品ではないと思わせる工夫とは

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ある日、私は、日比谷公会堂で開催されたNHK交響楽団の定期演奏会を見に行きました。それを聞いている間に、「あぁ、そうだ」と思ったのです。コンダクター(指揮者)は、楽器が多少はできるかもしれないが、バイオリンを弾かせたって、ピアノを弾かせたって、演奏者のほうがコンダクターよりうまい。しかし、コンダクターがいることによって、よりいい音が出る──

だから、1つひとつの技術は、ほかの技術者に負けたっていい、「俺は、コンダクターになればいいんだ」とそのときハッと思ったのです。あの苦境を脱するには、これしかないという感じでした。

コンダクターに徹することが自分の役目

1人ひとりとディスカッションをしながら、勝ち負けではなくて、みんなの技術を使えばいい、それをうまく総合していいものにしていく。それが自分の役目であり、誰にも負けないようにしようと決心したのです。

こうして自分の方向が決まったのは、私の会社生活での一大転機となりました。それ以来、どこへ行ってもそれほど悩まずに仕事ができました。

ソニー・アメリカへ行ったときには、自分にセールスの経験がなくても、みんなの総合力を集めてやることが、自分の使命だと感じることができていました。「セールスをさせられたって、何をさせられたって、コンダクターに徹していけばいいのだ。みんなの力を集めていい方向に持っていけばいいのだ」と思うようになりました。

テレビとビデオの責任者を任されましたが、これもまた、「テレビ屋さん」「ビデオ屋さん」は専門家ばかりですから、「材料屋」の私が技術的に何か言えるはずがない。しかし、彼らとディスカッションをして勝つのが自分の役目じゃない。それは、それぞれのトップがいるからその人に任せて、私は方向を決めていくのが自分の役目だと割り切れました。

『人の力を活かすリーダーシップ:ソニー躍進を支えた激動の47年 錦織圭を育てた充実のリタイア後』(ワン・パブリッシング)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

コンダクターとして、人の力をいかにうまく引き出すか。それには1人ひとりをよく知らないといけません。現場に行って自分の目で見て、現場の力を知ることが大切です。現場を牛耳るのではなく、自分は後ろ盾になって、どうしたら彼らの力を出せるか、あるいは伸ばせるか、そして自分の思う方向に行けるのかということを認識するのがトップの役目です。それが私の考え方です。私にはそれしかできませんから。

やってくれるのは現場ですので、現場と対立することはありえないと思うのです。利害の対立をする理由はないのではないでしょうか。みんな同じ方向を向いているのですから。

自分の思うようにするために命令ばかりする人がいますが、そういうトップの方々は、仕事ができ過ぎる人だと思います。私からすれば、命令して引っ張っていける人はえらいと正直思います。

私は自分の力がないと思っていますので、現場の力を活かすことしか私の役目はありません。命令するような力はないのです。もちろん方向だけは私が指示しないといけませんが、あとは現場の力をいかに活かせるかです。

盛田 正明 元ソニー副社長

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もりた まさあき / Masaaki Morita

1927年5月29日生まれ。愛知県出身。ソニー創業者の1人・盛田昭夫を長兄とする盛田きょうだいの三男として生まれる。1951年、東京通信工業(現在のソニー)に入社。常務取締役、副社長などを歴任し、ソニー・アメリカ会長も務める。1998年にソニーグループ引退後、2000年に日本テニス協会会長に就任。同年に、私財を投じて「盛田正明テニス・ファンド」を設立し、錦織圭をはじめ多くのジュニア選手の育成に尽力した。2016年、国際テニス殿堂と国際テニス連盟によって、毎年世界から1人が選ばれる、Golden Achievement Awardを受賞(2017年度、世界で19人目の栄誉)。牧阿佐美バレヱ団元理事長

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神 仁司 ITWA国際テニスライター協会メンバー

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こう ひとし / Hitoshi Ko

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現在のキヤノンマーケティングジャパン)勤務の後、テニス専門誌の記者を経てフリーランスに。テニスの4大メジャーであるグランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材している。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材も行っている。国際テニス殿堂の審査員。著書に、『錦織圭 15‐0フィフティーン・ラブ』(実業之日本社)や『STEP〜森田あゆみ、トップへの階段〜』(出版芸術社)がある。ITWA国際テニスライター協会のメンバー。

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