安倍元総理の「国葬」議論が国を二分した理由 敵と味方を分断する政治手法がもたらしたもの

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安倍元総理大臣の襲撃、国葬、政治について池上彰さんが解説します(写真:時事)
「大事なことは、過去の歴史の事象が、いまにどのようにつながってくるのかということを理解することです」という池上彰さん。大学での集中講義を基にまとめられた『池上彰の日本現代史集中講義』は、旧統一教会と自民党の関わり、政治とメディアの関係など、戦後、現代の日本をつくってきたさまざまな事象を池上さんが現代史の観点から解説しています。今回は、安倍元総理大臣の襲撃、国葬、そしてその政治について、本書から一部抜粋・編集してお届けします。

「国葬」が国を二分する議論に

2022年7月8日午前、奈良市の駅前で街頭演説をしていた安倍晋三元総理大臣が凶弾に倒れました。歴代首相経験者のうち、襲撃されて命を落としたのは7人。前回は齋藤實(まこと)が青年将校に射殺された「二・二六事件」(1936年)であり、戦後では安倍氏が初めてのことです。

参議院選挙の投票日を2日後に控えた応援演説中だったこともあり、事件直後は政治的なテロと結びつける報道が多く見られました。しかし、同日午後には「政治信条への恨みではない」と政治テロを否定する容疑者の供述を警察が発表しました。

奈良県警は事件当日の夜、記者会見を開き、「特定の団体に恨みがあり、安倍元首相がこれとつながりがあると思い込んで犯行に及んだ」という容疑者の供述を公式に発表しました。事件翌日には一部のネットメディアが「特定の団体」を旧統一教会(世界平和統一家庭連合)であると伝えました。参院選の翌日には、テレビ各局が旧統一教会を実名で伝えました。

逮捕された山上徹也容疑者は「母親が入信し、教会への献金で生活が苦しくなり、恨んでいた」「教団のトップを狙おうとしたが難しく、つながりのある安倍元首相を殺そうと思った」という趣旨の供述をしました。

教団が事件3日後に早くも記者会見を開いたことも刺激となり、報道の中心は旧統一教会に移っていきます。その結果、自民党を中心とする政治家と旧統一教会との癒着が次々に明らかになり、比較的支持率の高かった岸田政権は一気に逆風にさらされることとなりました。

岸田首相は安倍氏の銃撃事件からわずか6日後の7月14日には、「国葬」を行なうと表明。同月22日には、9月27日に実施と閣議決定しました。これが国を二分する論議を巻き起こしました。

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