安倍元総理の「国葬」議論が国を二分した理由 敵と味方を分断する政治手法がもたらしたもの

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実は国葬についての法律はありません。英国でもアメリカでも同様です。同年9月19日に執り行なわれたエリザベス英女王の国葬も、法律ではなく慣習にもとづくものでした。

戦後の日本で首相経験者の国葬が行なわれたのは、吉田茂元総理のみです。吉田氏はサンフランシスコ講和条約や旧日米安保条約を締結しました。佐藤栄作などの政治家を養成し、「吉田学校」と呼ばれました。亡くなった時点では引退していたため、歴史的な評価が定まっていました。国葬にふさわしい実績と言えますが、このときも国葬の是非をめぐって議論がありました。

佐藤栄作元総理が亡くなったときは国葬ではなく、「国民葬」という形になりました。沖縄返還を実現し、非核三原則を提唱してノーベル平和賞を受賞した実績があっても国葬ではなかったのです。

安倍氏は史上もっとも長期にわたる政権を担ったとはいえ、現役の政治家であり、自民党の最大派閥を率いる存在でした。歴史的な評価が定まるのはこれからでしょう。安倍氏自身を含む自民党国会議員と旧統一教会の関係が連日報じられる最中だったこともあり、国葬に反発する声も上がりました。

安倍元総理の国葬が国を二分する議論になった理由は、安倍氏が国民の賛否の分かれる政策を次々と実現し、支持する人・しない人がはっきり分かれていたこともあるでしょう。特定秘密保護法、安全保障関連法、共謀罪法などを根強い世論の反対を押し切って成立させ、一途に憲法改正を目指す安倍氏の姿勢には、支持者たちが喝采を送った一方、批判する人たちは反発を強めました。

敵と味方の分断は安倍氏の政治手法でした。

印象的だったのは2017年7月1日、東京都議会議員選挙を翌日に控えた秋葉原駅前での街頭演説です。「安倍やめろ」と声を上げた聴衆を指差し、こう言ったのです。「こんな人たちに負けるわけにはいかない」。

演説を邪魔されて我慢できなくなった気持ちはわかりますが、一国の現役の首相にふさわしい言葉とはとても思えません。自民党に投票しない「こんな人たち」も有権者です。いざというときには国が守らなければならない国民なのです。

「安倍一強」がもたらした分断社会

日本よりも社会の分断が深刻なアメリカではトランプ政権が生まれ、敵・味方を明確に分ける政治手法でさらに分断が加速しました。

2021年、ワシントンでの就任式の演説の中でバイデン大統領は「アメリカの大統領として、私に投票しなかった人のためにも、投票してくれた人のためにも、力を尽くします」と述べました。美辞麗句と言われるかもしれませんが、政治家が一度口にした言葉は、なかったことにはできません。

国民を敵に回した「こんな人たち」発言翌日の都議選で、自民党は惨敗を喫しました。

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