コーエン:今の状況は後からでないと完全には理解できないでしょう。1968年5月や、その前後には、工業社会は限界に来ていると考えられていました。その認識は正しかった。しかし、工業社会から抜け出しさえすれば、その後には永遠の平和が待っているとの予測は外れました。当時の人々は、消費社会は存続しないと考えていたのです。
経済のルールに支配された世界
ケインズが1930年代に示唆していたように、働く必要がどんどんなくなり、別の世界に変わっていくと信じていました。
実際、ベビーブーマーは、日本でも、フランスでも、アメリカでも60年代に大きな声をあげていました。自分たちの使命はポスト物質主義の世界を構築することだと考えていました。当時の人々はそう信じていましたが、それは実現しませんでした。
実際には今でも、経済の問題は変わらず存在しています。そして、今日、ポスト物質主義の世界に入るために求められているのは、生産性を向上させ、創造力を高め、仕事がルーティン化した途端に職を奪ってしまう機械に勝つことです。私たちは、物質主義のレースから抜け出した途端、別のレースに参加させられ、同じ緊張感に晒されているのです。
私たちは経済の世界からポスト経済の世界に移ったわけではありません。それどころか、かつてないほどに経済のルールに支配された世界に生きていると言えます。
ただし、その性質は変わりました。工場制度が終わり、ポスト工業化の世界に移行し始め、やっと少しずつ見えてきた実態は、私たちに大きな幻滅と失望しか与えていません。
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