「創造的であること」を強いられる社会は幸せか 逝去した「欧州最強の知性・コーエン」の嘆き

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コーエン:しかし、それは人間の労働力が不要になったということではありません。労働力が必要な職場はたくさんあります。病院、教育分野、老人介護施設など、労働力が必要な仕事は非常に多岐にわたります。

しかし、そうしたサービスは料金が高く利用したい人が利用できない状況にあります。老人が自分の世話をしてくれる人を二人も三人も雇うことは不可能です。言い換えれば、老人がサービスを利用できるほどには、その分野の生産性がまだ十分に上がっていないということです。

そのため、世界で最も高齢化が進んでいる日本では、介護ロボットが導入されつつあるのだと私は理解しています。介護サービスの労働力が足りないのです。

つまり、問題はテクノロジーに職を奪われ、人々の仕事がなくなったことではありません。人々が成長分野において適切な賃金を得ながら働くことができず、以前よりも生産性の低い分野で低賃金に甘んじなければならないことが問題なのです。

高学歴でも職を失うリスク

安田:農業から工業への移行期には、農業の技術革新と産業革命がほぼ同時に起こり、都市部の工業が農村で生まれた余剰人員の受け皿となった。けれど、今回は、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)技術といった新しいテクノロジーで生まれた余剰人員の受け皿が用意できていない。そのため、失業者が大量に発生する可能性があり、人々が不安になっているということでしょうか。

コーエン:おっしゃる通りです。今、私たちは移行期にいます。この移行の性質を理解することは非常に重要なことです。農業から工業、工業からサービス業への移行が何を意味するのかは容易に想像がつきました。農地で働くか、工場で働くか、銀行や保険会社でホワイトカラーの仕事をするかという違いでした。

今日の世界で難しいのは、移行期に差し掛かりながら、その後の世界が明確にイメージできないことです。新しく職を得る人とこれまでの職を失う人との分断は、同じ分野、同じグループの中で起こっています。同じ産業、同じサービス業の中で、新しいテクノロジーが労働者の生活パターンを変えているのです。

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