コーエン:20世紀を通して、フランス、アメリカ、そしておそらく日本でも、農業人口は急激に減少しました。その動向はフランスとアメリカで始まり、日本にも波及していったと思います。20世紀初頭には労働者の40%を占めていた農業従事者は、今では1〜2%程度です。
農村を離れた農民は都市部に移動し、工場労働者となりました。農業は供給過剰でしたが、産業革命最中の都市部では労働力が不足していました。産業革命、つまり技術革新が、農民を新しい工場で働く労働者に変貌させたのです。そして、労働者の農村から都市部への移動が、産業革命による経済成長をさらに大きくしました。
20世紀の経済が急成長したのは、この二つの出来事が同時に起きたからです。農業の生産性の向上により食糧が安くなる一方で、機械化された新しい工場で働く労働者が増えたのです。
仕事を失った人々が農村を離れ都市部に流入したのと同時期に、もし、産業革命が起こっていなければ、どのようなことになっていたでしょうか。都市部では大きな社会的な緊張が生まれたはずです。そして、経済があのように急成長することはありませんでした。経済を牽引するのは農業の生産性向上だけである上、農村での仕事は失われるからです。
私たちが今経験しているのは、そのようなことかもしれません。技術革新で生産性が上がって多くの人が職を失っているのに、それに代わる受け皿となる産業がありません。銀行、保険などの第三次産業では、すでに職を離れた人がたくさんいます。
成長分野で適切な賃金が得られない現実
新しいテクノロジーに職を奪われたわけですが、その人々は以前よりも生産性を高めること、即ち、前より報酬の高い職業に就くことができていません。新しい仕事を探しても、見つかるのは生産性がさほど高くない仕事ばかりなのです。そこに大きな格差が生まれています。
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