「オランダ語ペラペラ」勝海舟に学ぶ最強の学習法 辞書を書き写してオランダ語をマスター!?

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4
拡大
縮小

東京大学が2021年3月に発表した研究によると、3言語以上の習得経験を持つ多言語話者のほうが、2言語話者よりも新たな言語を習得するときの脳の活動が活発になることがわかっています。統一された言語がなく、多様な言語が使われていた当時の日本は、外国語習得には比較的有利な環境だったのかもしれません。

海舟も、江戸語や上方語に触れる中で培った語学の素養を、オランダ語学習において発揮しました。元々は剣術に励んでいた海舟ですが、永井青崖に師事して西洋の兵術を学ぶ中で、オランダの大砲に興味を持ったことをきっかけに、本格的にオランダ語を勉強するようになります。

日本にいながらにして海舟が実践した驚きの学習法が、全部で58巻もあった蘭日辞書『ヅーフ・ハルマ』をひたすら書き写すことでした。 当時、外国語の辞書は大変高価な貴重品で、貧しかった海舟は辞書を購入することはできませんでした。そこで、知り合いから辞書を借り受け、1年がかりで2部書写。1部を売って借り賃を返し、もう1部を手元に残したといいます。

こうしてオランダ語を習得した海舟は、オランダの海軍提督キンスべルゲンが書いた『舶中備要』を原書で読みました。ペリーが来航する半年も前にこれを読み終えた海舟は、本に書かれていた「世界の中のオランダ」という視点を「世界の中の日本」に置き換え、国防について考えを巡らせていたそうです。

海軍伝習所では脱落者が続出

海舟は27歳で東京・赤坂に氷解塾と呼ばれる蘭学塾を開き、オランダ語を教えるようになります。ちょうどそのころ、ペリー来航を目の当たりにした海舟は、国防強化を提案する意見書を幕府に提出。これが幕府の目に留まり、長崎の海軍伝習所で生徒監(生徒代表)として学ぶチャンスを与えられました。海軍士官養成のため設立された伝習所には、海舟のほかにも、幕臣や諸藩の藩士から選抜された生徒が集まっていました。

伝習所の講義は大変厳しいものでした。オランダ人の教官が黒板に書いた言葉をひたすら暗唱することが求められたのです。講義中は板書をノートに書くことは許されませんでした。

というのも、実際に国防の最前線では、船上でオランダ人と会話をすることが求められます。オランダ人が発した言葉を、揺れ動く船の上で書き取ることは不可能ですし、そもそも、難なく会話をこなせるレベルでなければ実務に携われません。板書を暗唱した翌日は、板書なしでの講義が行われたのだそうです。これに耐えきれず、脱落していく生徒も多かったのだとか。

次ページ散歩で脳を活性化!
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT