「ある日突然、僕に東大に行くようにそそのかした音楽の先生が、僕をドイツに連れて行ったんです。浪人中ですよ? 信じられます? しかも現地の空港に着いてすぐ、先生は『俺は仕事があって明日まで家にいないから、勝手に宿に行って勝手に飯を食え!』と去っていったんです。
浪人生を海外に連れて行って、そのうえで放っておくなんて、むちゃくちゃな話ですが、今思えばそれは、大学受験で結果を出せない自分の意識を変える作戦だったんです」
視野が狭くて自分の殻にこもってばかりだった西岡さん。このドイツ旅行は、その価値観を壊さなければ東大に合格することができない、と考えていた先生の作戦だったのです。
そして空港に置き去りにするだけではなく、レストランで会った外国人に先生が勝手に話しかけて西岡さんも話さざるをえない状況になったり、そこで出会った韓国人の男性と1日一緒に行動させられたりしたそうです。泳げない生徒をいきなり水に突き落とすような荒療治ですね。
印象に残っている2つの出来事
その刺激的なドイツの日々の中でも、特に印象に残っている経験が2つあるそうです。
1つ目は、先生にドイツの夜の店の近くに連れて行かれたことでした。
「風俗店の近くに連れて行かれて、『なんでこんなところ連れてきたんですか!?』って驚いていたら、先生にこう言われたんです。『西岡、EUとはなんだ?』と。それに僕は『え?提携を組んでいるヨーロッパの国々で、ヒト・モノ・カネが自由化する仕組みのことですよね?』と、今までの勉強で覚えていたことを堂々と答えました。
すると、先生が近くにいた女の子に『どこ出身?』って話しかけ始めたんです。ポーランドやハンガリーから来ていることがわかって、その理由を聞いたら『地元に息子がいるの。ここに来たらすごく稼げて、半年働いたら1年は暮らすことができる。EUがあるから移動にお金もかからない、すごくラッキーなのよね』って話してくれたんです。
彼女たちの話を聞いたあと、先生はこう言いました。『おい、西岡。お前は教科書に書いてある知識はしっかり覚えているけど、そのまま覚えるだけでは東大に受からないからな。この人たちにとってのEUの利点はこうなんだぞ』と。
僕はそこで初めて、今までの受験で落ちた理由がわかったんです。先生は、丸暗記ばかりではなくて、視野を広げて応用を利かせないといけないことを僕に伝えてくれたんです」
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