世俗の荒波にもまれる中、ふとハルマゲドンは本当に来るのかという疑念が芽生えたのだ。いったん疑いの目を持って調べ出すと、疑念は確信へと変わった。上部組織に自身の疑問を投げかけても、誠実な回答を得られなかったことも不信感に拍車をかけた。
最終的にダイキさんは組織から「排斥」される。破門に当たる最も重い処分だ。排斥されると、親族からも交流を拒絶される。ダイキさんも、街中で顔見知りの信者と出会っても無視をされるようになり、やがてSNSもブロックされ、メールの返信も途絶えた。両親とも会っていない。
「面接」にすらたどり着けない
排斥には信仰への回帰を促す目的もあるのだろう。しかしその手法は集団いじめと批判されても仕方がないのではないか。ダイキさんによると、信者によるコミュニティーしか知らない2世が排斥され、拠り所を失った結果、自死を選ぶケースもあるという。
そして信仰を止めたからといって、ダイキさんの受難が終わるわけではない。40歳代からの転職は一層困難を極めた。職種を問わず応募しても、面接にすらたどり着けないのだ。
奇跡的に建設コンサル会社に正社員の技術者として採用されたこともあったが、月の残業時間が100時間を超えるのが当たり前という悪質企業だった。独学で関連の資格を取ったり、CAD(自動設計システム)の使い方を学び直したりしたものの、心身がもたなかった。その後に就いたのはまたしても最低賃金水準のパート。ハローワークの担当者に職業訓練を受けたいと希望したが、「就労につながる可能性が低い」などと突き放され、受講さえできなかったという。
この間、ダイキさんはただ泣き寝入りをしてきたわけではない。自分で調べたり、ユニオンに相談したりして、雇用主を雇用保険に加入させたこともあれば、未払い残業代を請求したこともある。一方で貧すれば鈍す、を地で行くようにここ数年で複数の投資詐欺の被害にも遭った。奨学金は全額返済したのに、詐欺被害でできた借金とコロナ禍で利用した政府の特例貸付を合わせると、現在の借金は約300万円。年金も今のままでは、受給できたとしても月3万円ほどだという。
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