院卒で就けた仕事は清掃…「宗教2世男性」の苦悩 布教を優先すべきという「エホバの証人」の呪縛

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どんなにもがいても浮上できない状況を前に、ダイキさんは「(宗教を辞めて以降)自分は周回遅れなんだと思い、追いつこうとがんばってきました。でも、最近は自分の走っているレールはほかの人とは違う。追いつくことはできないんだと思うようになりました」とうなだれる。

ダイキさんは今回取材に応じた理由を次のように話す。

プライドを捨てなければ働けない社会とは

「ひとつは、若い信者たちには私のような不幸な生き方をしてほしくないと思ったからです。彼らにはできるだけ早い段階で、人生の選択を自分の頭で考えてできるようになってほしい。もうひとつは、新しいチャレンジを許す社会になってほしいという願いを伝えたかった。私のようなキャリアの人間を雇う会社のリスクは理解できます。でも、これからも自分に合わない仕事を続けなければならないかと思うと、絶望的な気持ちになります」

自分に合わない仕事――。もしダイキさんがプライドを捨てれば、そんな苦しみから解放されるのだろうか。しかし、プライドを捨てなければ働けない社会とはいったいなんだろう。

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ダイキさんの半生はままならないことが多かった。一方で語り口は穏やかで、時に失敗談や失恋話を交えながら聞く側を和ませてくれた。趣味も音楽鑑賞や読書と豊富で、中でも音楽はクラシックから「ももいろクローバーZ」まで幅広くはまっているようだった。

大学院卒業後、母校で掃除の仕事をしていたときに思い出したのも、1990年代を代表するアメリカのロックバンド「ニルヴァーナ」のカート・コバーンのことだったという。コバーンがデビュー前の一時期、自身が中退した高校で清掃員として働いていたことがあるのは、洋楽ファンの間ではよく知られたエピソードだ。

ダイキさんは「彼は結局、自殺したんですよね」とつぶやいた。

不世出のロッカーとダイキさんの未来が重ならないことを願う。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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