院卒で就けた仕事は清掃…「宗教2世男性」の苦悩 布教を優先すべきという「エホバの証人」の呪縛

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最後は援助は一切しないという条件で両親が折れた。というか匙を投げられた。ダイキさんは勉強とアルバイト、布教活動の“3足”のわらじを履き、2年間の浪人の末、地方の国立大学に合格。人生で一番うれしかったという合格通知が届いた日、両親から「おめでとう」という言葉をかけられることはなかったという。

成績が優秀だったので、学費は大学院卒業まで全額免除。1人暮らしの生活費は奨学金でまかなった。恩師は厳しかったが、学問の日々は充実していた。宗教との関係もおおむね良好だった。

しかし、卒業後の就労は困難を極めた。低賃金の非正規労働や法律を守らない悪質企業を転々とすることになる。

人間扱いされていないと感じた

牛乳配達を辞めた後、知り合いの信者の口利きで働き始めた不動産会社には社会保険がなかった。また、パート採用された家電量販店は月収13万円ほど。正社員とほとんど同じ仕事をしているのにボーナスもない。社内の労働組合に相談したが、「パートの賃金は自活することを想定していない。あなたも納得して入社したんでしょ」とあしらわれたという。

労働組合がこれを言ってはおしまいだろう。ダイキさんも「(募集時に)正社員かパートか選べもしないのに、『納得して入社した』というのはおかしいですよね」と首をかしげる。

中でも酷かったのは工場での派遣労働だった。携帯の組み立て工場では指サックの装着と防護服の着用が必須。トイレ休憩は10分で、着脱に手間取って少しでも持ち場に戻るのが遅れようものなら、社員から「何考えとんじゃ!」と怒鳴り散らされた。一方で部品の入荷が遅れると、業務がないという理由で定時前でも一方的に退勤させられる。そのせいで給料は予定の6割ほどにしかならなかった。続いて派遣された工場も罵声、罵倒は日常茶飯事。そこは中国人の技能実習生が多く、仕事の段取りは、彼らがたどたどしい日本語で教えてくれた。

「人間扱いされていないと感じました。派遣はもうこりごり。あと、『日本製』にこだわっても意味がないと思いましたね。だって作ってるのは中国人ですから」とダイキさん。メイド・イン・ジャパンは名ばかりで、実際はメイド・バイ・チャイニーズというわけだ。

両親に悩みを打ち明けても、「プライドが高いから自尊心が傷つく。パートやアルバイトでいいじゃない。正社員になったって、いずれ世界は終わるんだから」と諭されるだけ。一方で善し悪しは別にして、信者として忠実に生きることと、「学歴に見合った仕事」をしながらの自己実現との両立は、そもそも難しいことにもみえる。

これに対し、ダイキさんはこう訴える。「自分で選んだ道でしょ、と言われればそのとおりです。でも、子どものころから(エホバの証人の)価値観を刷り込まれ、その世界しか知らずに生きてきたんです。気づくのが遅いと言われるかもしれませんが……」。

転機は40歳をすぎたころに訪れた。エホバの証人との決別である。

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