太宰治、6月19日の「桜桃忌」が命日以上に有名な訳 入水は13日だが…元ネタ小説の『桜桃』を解説

✎ 1〜 ✎ 35 ✎ 36 ✎ 37 ✎ 38
拡大
縮小
6月13日の命日よりも、6月19日の「桜桃忌」で知られる文豪・太宰治(写真:髙橋義雄/PIXTA)
学校の授業では教えてもらえない名著の面白さに迫る連載『明日の仕事に役立つ 教養としての「名著」』(毎週木曜日配信)の第36回は、6月19日の「桜桃忌」で知られる文豪・太宰治の短編小説『桜桃』について解説します。
この連載は毎週更新です。著者フォローをすると、新しい記事が公開されたときにお知らせメールが届きます。
この連載の記事一覧はこちら

「桜桃忌」の元ネタとなった短編小説『桜桃』

6月19日は「桜桃忌」と呼ばれている。桜桃とはさくらんぼのことなのだが、なぜこんなふうに呼ばれているかといえば、太宰治の好きな食べ物だったからだ。そう、6月19日は太宰治の墓前にさくらんぼが大量に供えられる日なのである。

実は太宰治の命日そのものは6月13日。入水したのは13日なのである。だが遺体が発見されたのが19日であり、太宰と親交のあった作家がこの日を「桜桃忌」と名付けたために、19日のほうが有名になったのだ。

太宰治にちなんで、今回は「桜桃忌」の元ネタとなった小説を読んでみよう。

短編小説『桜桃』は、こんな文章から始まる。もしかしたら『桜桃』を知らなくとも、冒頭のフレーズだけ聞いたことがある方もいるかもしれない。

子供より親が大事、と思いたい。
(太宰治『桜桃』「人間失格・桜桃」角川文庫、角川書店より引用)

なぜこんな文章を太宰は書いたのか? それはもちろん、実際は「子供より、親が大事」なんてことはなく、現実は「親よりも、子供が大事」に決まっているからである。少なくとも彼が生きていた時代は、そうだった。文章はこのように続く。

子供のために、などと古風な道学者みたいな事を殊勝らしく考えてみても、何、子供よりも、その親のほうが弱いのだ。少くとも、私の家庭においては、そうである。(中略)この親は、その家庭において、常に子供たちのご機嫌ばかり伺っている。子供、といっても、私のところの子供たちは、皆まだひどく幼い。長女は七歳、長男は四歳、次女は一歳である。それでも、既にそれぞれ、両親を圧倒し掛けている。父と母は、さながら子供たちの下男下女の趣きを呈しているのである。
(『桜桃』)
次ページ子育ての疲弊を父親目線から描いた小説
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT