38歳の綿矢りさはとてつもなく深みを増していた 新刊『嫌いなら呼ぶなよ』は今の彼女こその等身大
小説家・綿矢りさについて、私たちは何を知っているだろう。2001年、17歳で生まれて初めて書いた小説作品『インストール』で文藝賞デビュー。折しも時代は2000年代JKブーム、アイコニックな京都出身の女子高生作家の登場に世間は沸いた。
早稲田大学へ進学して書き上げた2作目『蹴りたい背中』で2004年の第130回芥川賞にノミネートされ、同学年である金原ひとみ『蛇にピアス』とダブルで、しかも綿矢は記録上最年少での芥川賞受賞という文壇の事変は世間から大きな注目を浴び、受賞作品掲載号の「文藝春秋」もまた、記録に残るセールスを達成した。
「美少女」「アイドル並みのルックス」とあちこちで紹介された。芥川賞受賞時の写真では、茶髪に黒いミニスカートに黒いニーハイソックス姿で自身の過激な作風をそのまま漂わせていた無表情な金原の隣で、黒髪にカーディガンと膝丈スカート姿で瞳に利発な意志を宿した19歳の綿矢は、対照的に「清楚」と評された。
当時、新聞で、テレビで、誰もがあの綿矢の姿を強いインパクトとともに目に焼き付けた。読者や視聴者はそれぞれに勝手な印象を持ったかもしれない。その綿矢も今年38歳、作家生活は21年となり、「作家以前」よりも「作家後」の人生のほうが長くなった。
女子高生デビュー、美少女、芥川最年少作家と世間が勝手に載せる冠のために注目がついてまわった異例ずくめの作家人生、17歳から職業小説家として生きる綿矢りさは、結婚、出産そしてコロナ禍を経て、いまどんな表情を見せるのか。(文中敬称略)
こんな綿矢りさ、見たことない
綿矢は、母となってからの小説執筆を「育児からの現実逃避というか、仕事というよりも遊びの領域」と表現した。もちろん時間的な制約があるのは「しんどい」が、書くこと自体は現実逃避策として楽しむことができる。だが、「出産や子育てで自分の見た目に変化が起きて、それでも今までと同じようにメディアで仕事をするにはちょっと気後れしたりとか、対人のお仕事が日頃の子育てとあまりにも違うので苦労しました」。
好奇心いっぱいの男性週刊誌などでは「ビジュアル系」などと呼ばれる通りの美麗なルックスに、おっとりとした京都弁で話す。そんな彼女には、世間に気後れする必要などまるで感じられない。でもあのセンセーショナルな芥川賞受賞で生まれた「若き美人作家」イメージを抱えながら、小説家として自分の才能の波と向き合って大人になるのは、まさか簡単なことであったわけはない。
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