38歳の綿矢りさはとてつもなく深みを増していた 新刊『嫌いなら呼ぶなよ』は今の彼女こその等身大

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登場人物は3人。「綿矢りさ」という厄介な作家37歳、「シャトル蘭」と名乗る気の強いフリーライター42歳、そして半グレ経験ある男性編集者・内田26歳が、綿矢へのインタビュー記事の書き直しをめぐって、「CC」を入れた3人の間におけるメールのやりとりで激しいバトルを繰り広げる。

「ほとんど全文を書き換えられていますね。こちらのプライドが許さないところもあります」(シャトル蘭)

「片腹痛いです。記事を直しただけでこんだけゴネるなんて、正直びっくりです。それで私をやっつけた気になってるのなら、片腹どころか両腹痛いです。笑ろてまいます。とにかく私の指示通りに原稿を直してください。現在あなたに必要な役目はそれだけです」(綿矢りさ)

「(綿矢をCCから外し)そろそろ締め切りの心配も高まっており、まことに申し訳ないですが今回はシャトル蘭さんの方から折れていただくことは可能でしょうか?」(編集者内田)

「(綿矢をCCから外し)今回はどうしても引き下がれません。こちらにもライターとしての矜持があります。横暴を許容し続けるのは、この作家のためにも良くないという気がしています」(シャトル蘭)

「なんか私とのやり取りが止まってしまいましたが、大丈夫ですか? もしかしたら私を仲間外れにして、二人で内緒話してますか?」(綿矢りさ)

「一応現時点では芥川賞最年少作家といえばこの私なんですけど⁈」(綿矢りさ)

「CC怖いなってずっと思っていた」

もうサイコーである。綿矢が解説するところでは「三つ巴合戦でぶっ放す、という感じですね。こちらにいる人間とそちらにいる人間が直接やり取りすることはないんですけど、CCという魔力によってすべてがつながる。CC怖いなってずっと思っていたんですね。CCになったらどうしよう、だからそのCCへの恐怖があって(笑)。私の場合は、たぶん編集者が止めてくれていて、そういう三つ巴合戦みたいなことはほんまになかったんですよね。でも、全員がフルで好きなようにしたらこういうことになると」。

嫌いなら呼ぶなよ
『嫌いなら呼ぶなよ』(河出書房新社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

こういう困った人いるいる、との毒々しい笑いと爽快感。声に出して読みたいほどリアルなメール文には綿矢の卓越した筆力をしみじみと感じさせられる。「この『綿矢りさ』って作家も、もうすごい嫌な人ですよ。文中で焼肉行こうって言ってますけど、絶対一緒に焼肉行きたくない(笑)。でも一人称なりなんなり、書くということはすなわち自分をある程度自己紹介しているので、自分の気持ちはちょっと反映されているかもしれないです。私はメールにこんなこと書かないですけど、生理前とかはこういう気持ちですね(笑)」。

綿矢が「関西人なので」と渾身の力で笑(わら)かしにくるこの書き下ろし、彼女の作家生活20年超のマイルストーンとして、ぜひ腹を抱えてお読みいただきたいのである。

(撮影:今井康一)
河崎 環 フリーライター、コラムニスト

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かわさき たまき / Tamaki Kawasaki

1973年京都生まれ、神奈川県育ち。桜蔭高校から親の転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。多岐にわたる分野での記事・コラム執筆をつづけている。子どもは、長女、長男の2人。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。

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