38歳の綿矢りさはとてつもなく深みを増していた 新刊『嫌いなら呼ぶなよ』は今の彼女こその等身大
「テレビでも、不倫とか不祥事とかの謝罪会見を見たときに、反省してはるんやけど何かが違う、という違和感の蓄積があって。そこにある快楽主義みたいなものを見逃せへんなと。コロナの前はこういう話を書きたいと1回も考えたことがなかったです。でも、コロナで普段やったら謝らないようなことも人が謝るようになって。例えば電車の中でマスクつけないと周りから怒られるし、夜遊びして怒られるし、陽性なのに会社行って怒られるとかね(笑)。今まで謝っていないようなことで謝るとか、気を付けなきゃいけないことが増えて。
で、私は言われたことを守るタイプなんですけど、配慮に縛られてしまってすごいストレスたまっちゃって。そんな、『どこまで気を付けたらええねん!』という気持ちが混じっていったんですよね。誰かに怒られるかもしれないと思いながらも、本当にこういう人いたらおもしろいなと思いながら好き放題書いていました」
作家として「年齢的な変化はいちばん大きい」
表題作「嫌いなら呼ぶなよ」は〈デビュー20周年記念作〉として発表された。かつて2012年に綿矢が『かわいそうだね?』で大江健三郎賞を受賞したとき、受賞記念対談で大江がミラン・クンデラの言葉を引き「仕事を開始するにあたって美的な計画を立てる人」とまで絶賛した、綿矢の巧みな小説構成にハッとさせられる。SNSでは「最初の1ページから最後の一文まで全部面白い」「構成から終わり方からタイトルまで完璧」との言葉が踊った、脱帽するほどのたくらみが張り巡らされた作品だ。
作家本人にとっては、創作は地続き。「新境地」と評される作品も、突然変異で出てくるものではない。長いキャリアの間にさまざまな試みを続けてたどり着く、折々の到達点。それが時系列で並んだものを、私たちはその作家の作品群と呼ぶ。
「若いときから長く書いてきたからかもしれないけれど、年齢の変化は自分の中でいちばん大きいです。10代のときのことって、自分が10代に感じていたようにはもう書けないし、逆に10代のときに30、40代の人のことは全然わからなかったというような。だから、書けるものは広がってきたという気がしつつも、10代のときに敏感に感じていたようなことを感じなくなっていきますね。
例えば太宰治とか、10代みたいな感性で突き進んでそのまま書く稀有な人もいる。人によって老け方は違うんやなと思って。私もデビューが早かったから自分もそのタイプかなと思っていたんですけど、全然違って。年齢に大きく左右されるし、刹那的な感じが昔よりどんどん減っていっているんです。
だから、私の10代のイメージで今の本を読んでもらったら、当時書いていたようなものを求められても全然違うものができあがっているから、それは申し訳ないなと思うけど、もう止められへんからしょうがないやん、って感じで(笑)」
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