21歳で芥川賞「宇佐見りん」だから描ける独特世界 高橋源一郎・斎藤美奈子が選ぶブックリスト

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SNSを若手作家はどう描いているのでしょうか(写真:Fast&Slow/PIXTA)
作家・高橋源一郎さんと文芸評論家・斎藤美奈子さん。“本読みのプロ”2人の対話を通じて、平成から令和まで約30年の間に刊行された「文学」から「社会」の姿が浮かび上がる。
2011年から2021年までに行った2人の対談をまとめた『この30年の小説、ぜんぶ 読んでしゃべって社会が見えた』を一部抜粋、再構成して3回連載で展開。
第1回となる今回は、『推し、燃ゆ』で第164回芥川賞を受賞した宇佐見りんさんのデビュー作『かか』を取り上げ、SNSと小説の関係、ネットツールによって拡張した五感についての対話をお届けします。

「この世界には絶対に屈しないという十九歳の叫び」

[第1回]

宇佐見りん『かか』(2019/河出書房新社)

斎藤 美奈子(以下、斎藤):三島賞を受賞した『かか』(2019)は令和最初の青春小説ですよね。宇佐見りんさんの文藝賞受賞デビュー作。 私、このとき文藝賞の選考委員で、どっちかっていうと(同時受賞した)遠野遥さん推しだったんですが(笑)。高橋さんは推薦文に「『かか』を読んだとき、私は宇佐見さんが好きだという中上健次の『十九歳の地図』を思い浮かべた。どちらもこの世界には絶対に屈しないという十九歳の叫びだ」って書かれていますよね。なるほどなとは思いましたが、宇佐見りんと中上健次は一見似てはいませんよね。

高橋 源一郎(以下、高橋):あの新聞配達する少年のヒリヒリした感じが、時代を超えて蘇ってきました。宇佐見さんが中上さんを好きなのは、男性作家の中では珍しく身体性の強い作家だったからじゃないかな。

斎藤:朝日新聞の文芸時評(2021年8月25日付)で鴻巣友季子さんが『かか』を取り上げていて、「ヤングケアラー小説」だと評していました。

高橋:なるほど。その視点には気がつきませんでした。子どもが病んでいる母親の世話をするわけですね。

斎藤:『かか』の主人公は浪人生で、幼い弟と母親の面倒もみなければならない。私は母子密着小説として読みました。自分は母を生みたかったと主人公は言う。身体性の問題ともからみますが、彼女の身体は母親に侵食され、言葉が独特の歪み方をしていく。

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