21歳で芥川賞「宇佐見りん」だから描ける独特世界 高橋源一郎・斎藤美奈子が選ぶブックリスト

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高橋:3人だけが使う超マイナー言語があるんですよね。生の身体だけでなく「言葉という身体」があって、それを導入している。よくできているなと思いました。

斎藤:主人公が自由な心を保っていられるのは、SNSで「ただの言葉」のやりとりができる友だち関係があるからです。『かか』の主人公はSNSなしには暮らせない。

高橋:『推し、燃ゆ』(2020/河出書房新社)もそうですね。

斎藤:それが現代のリアルなんですね。SNSが持っている肯定感っていうか、宇佐見さんは実際にああいう世界を好きだとおっしゃったりもしている。

高橋:SNSと小説がどういう関係にあるか、そこまで深く考えたことはないんですが、確実に人びとの視線はテレビ的なものよりSNS的なものに向かっています。SNSは社会というか、その一部と、直に接続されている。小説は本当はSNS的なものと反対方向を向いているんですけれどね。

文学だけの自立した世界を作るわけにはいかない

斎藤:ただ、インターネット上の新しいツールは、若い作家がいち早く小説に取り入れますよね。綿矢りささんの『インストール』(2001/河出文庫)は、チャットでの「なりすまし」がモチーフだったし、舞城王太郎さんの三島賞受賞作『阿修羅ガール』(2003/新潮文庫)はネット上の匿名掲示板なしに成立しない。本当は小説と反対方向だといっても……。

『この30年の小説、ぜんぶ 読んでしゃべって社会が見えた』(河出新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

高橋:どうしても侵食はされていきますよね。千葉さんの『オーバーヒート』(2021)にもSNSによる侵食の様子が書かれていました。今、それを断ち切って文学だけの自立した世界を作るわけにはいかないでしょう。

斎藤:そこから離れたらもう暮らせないわけですね。

高橋:『かか』に、熊野に向かう列車の中で地図アプリが開けなくて圏外だと気がつく場面があるんですね。そして「現代の怪談を構成する要素のひとつに、「圏外」があります」と書かれています。いま、携帯がつながらない、電源が切れるともう生きていけないと思う子たちがいっぱいいるでしょう。その恐怖って単に連絡がつかないってことじゃなく、『かか』で描かれた「母体から切り離される恐怖」に近いものなんですよね。ぼくたちから見ると、そこには身体性がないんじゃないかって思うんだけど。

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