中村文則「僕は小説家だからこそ恐れずに言う」 安倍政権に疑念投げかける芥川賞作家の信条
”公正なはずの世界”で、社会の悪化は加速する
「人に迷惑をかけたくないと思うので、人前ではスイッチを入れて明るくしているだけですね。小説のほうが本当の自分です」。ダークな作品世界とは異なり、中村は明朗に歯切れよく話す。だがその目は、決して人間に警戒心を解かない野生動物のようだ。
コロナ感染拡大を受け、7都府県における緊急事態宣言が発令された直後。インタビュー取材は広い会議室の中で社会的距離を保ち、全員マスク姿で行われた。今回のコロナ禍では初期にインフォデミックという象徴的な造語も出たほど、ネットを介した社会不安と憎悪の増大が特徴的だ。コロナ社会は中村の目にどう映っているだろう。
「僕自身は、このウイルスは世界全体が悪いほうへ向かう速度を劇的に上げてしまうと考えています。世界的な経済好景気という流れはまやかしだとずっと思っていたんですが、コロナによって差別や格差というものがまた浮き彫りになり、しかも広がってしまった」。差別とは公衆衛生や快不快と関わった途端に激烈になるものであることは、人間の歴史が証明してきた。「究極的には、自分か自分以外かということになってくる。断絶は進むでしょう。人と人との距離は離れ、より人は内向きになっていく」
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