中村文則「僕は小説家だからこそ恐れずに言う」 安倍政権に疑念投げかける芥川賞作家の信条
「単純な話、小説とか読んでいるビジネスマンのほうがカッコいいですよ」
なんて力強く言い切れてしまう著者だろう、と思わず声に出た。最前線で結果を出してきた。いま文壇には中村文則に似た人さえいない、唯一無二の個性だ。中村はすかさず「18年やってますから。何というか、こういう風に言わないと、世の中つまらなくないですか? いかにも売れなそうな『教団X』みたいな本が売れる世の中のほうが面白いじゃないですか(笑)。世の中も少しずつ変えていくことができる」と、手の内をちらりと見せてくれた。18年書き続け、戦い続け、数々の栄誉を受けてきた中村の手の内も、なかなかどうして傷だらけだ。
「基本的に、小説家なんてみんな不幸です」
『逃亡者』は中日新聞など4紙の朝刊連載だった。中村はこれまで毎日新聞、読売新聞、そして中日・東京新聞で小説連載をし、現在は朝日新聞朝刊の『カード師』連載に取り組んでいる。一般紙はほぼ一周したと言ってもいい、驚異のキャリアだ。『逃亡者』『カード師』ともに「新たな代表作にするつもり」と意欲的だが、「新聞連載は、すげー大変です」と苦笑する。
「書き方ですか? パソコンで打って、でもパソコンは光る画面なので、手直しは必ずプリントアウトしたものの上で直す。それをまたデジタルに移し直して、というのをずっとやっています。1文字取るとか、助詞を省くとか、”る”じゃなくて”た”で止めよう、”た”じゃなくて”く”で止めよう、そんなふうに編集者に渡す前に10回くらい直しています。語尾の「た」は停まる感覚があって、「く」や「る」は進んでいく感覚を得られる。文章はプリントアウトしてから見ると全然違うので、ビジネスマンも企画書などをデジタルの画面だけで見ないで、プリントアウトするといろいろアラが見えてくるかもしれません」
中村の創作の集中力は、担当編集者曰く”お隠れあそばす”というレベルらしい。いったんモードに入ってしまうと、電話も取らずメールもせず、そのドアの向こうで何をやっているか誰も知らない。生活は「小説に全部持っていかれている」という。
「作家ですから、そういうものですよ。すべてにおいて、小説にとってどうかが基準です。小説とは一蓮托生で、いい小説ができたなと思うと健康状態も良くなるところがあります。小説家はオンオフが難しい。休んでいてもふとアイデアが浮かんだり、どこ行っても何やっても常に何かしら考えてしまったりする。ビジネスマンも同じかもしれないですね。オンオフをつけるのは難しいけれども、今は年齢的に余裕があるのでこれでいいかなと。25歳でデビューしてから18年くらい、ずーっとそんな感じです」
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