38歳の綿矢りさはとてつもなく深みを増していた 新刊『嫌いなら呼ぶなよ』は今の彼女こその等身大
さすが小説家、笑い話にしてはいるが、両手を握り締め、歯を食いしばって眠るとは、やはり頭を使う職業はプレッシャーも相当なものなのだろう。
「嫌ですよね。なんか寝ているときぐらい力抜けよって。あれよくないと思います。よくない、よくない。座ってばっかりの仕事で主人公と一緒に思い悩んだりするのをずっと続けていると、上半身はどんどん血が集まって元気になっていくんですけど、下半身がだんだん弱ってくるから、今後は体力づくりをしなければ、って。
もう書くことは放っておいても結構できるようになったので、これからは体を動かしてストレス解消して、体全体の筋力を上げるというのが展望です(笑)。体動かすということに着目していかないと、たぶん書くことも続けられなくなるので」。書き続けるために体を鍛える作家も多い。綿矢にはぜひ体を動かしていただき、歯ぎしりやこわばり知らずの健やかな睡眠を手に入れてほしい、と祈る。
「これからどういうものが書きたい? うーん。自分のやり方でジャンルに縛られずに書いていくということをやっていきたいですね。例えば、ファンタジーとか戦争ものとか、たぶんその枠にはまろうとしたら全然向いていないけど、書こうと思えば私なりに個性的なものができるんじゃないかと思っていて。推理ものとかに挑戦して人が驚くようなトリックは全然考え出せへんけど、これジャンルとしては推理なのかな、みたいな。そういうジャンルを飛び越えてやっている小説作品とか映画に触れていくにつれて、自分もちょっとやってみたいなとは思います。
これから自分の強みとして出していくなら、やっぱりもう昔から書いていたというのがいちばんかな。安達祐実さんみたいに、親しみを感じていただければそれだけでうれしいです。私、年上の女性小説家さんたちのエッセーを読むのが好きなんですけど、昔から知っていた小説家さんがおばあちゃんになってから痛快なことを言いたい放題言っているのが、すごい面白いんですよ。
この域にまで達してしまった、もう彼女たちに怖いものは何もないみたいな。そういうのを目指したいなと。自分でも、昔は素敵な暮らしぶりに憧れるなんてのが好きでしたけれど、最近はよくぞ言ってくれた、みたいな人の本を読んだほうが楽しい年齢に差しかかってきたんです。そういうのを書くのって結構難しいと思うから、頑張っていきたいです」
綿矢りさが「渾身の力で笑かしにかかっています」
新刊『嫌いなら呼ぶなよ』は綿矢の言う「痛快」「言いたい放題」へしっかりと舵が切られているのを感じるが、巻末収録の書き下ろし作品である「老(ロウ)は害(ガイ)で若(ジャク)も輩(ヤカラ)」こそは、綿矢流「ツーカイ・イータイ・ホーダイ」の傑作だ。抱腹絶倒を保証しよう。
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