38歳の綿矢りさはとてつもなく深みを増していた 新刊『嫌いなら呼ぶなよ』は今の彼女こその等身大

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「それまでは、構えていると言ったほうがいいのかな。こういうことを書いていいのかな、って1回自分の中でチェックを入れていたりとか、文章的に優れている、優れていないというチェックも自分の中でしていました。凡庸すぎるかな、とか。でも、いまはもうしゃあないやん、凡庸なこと考えているねんからって思えるようになって(笑)」

作家・綿矢りさが凡庸な文章を書いてしまうことを、綿矢自身がもっとも恐れていた。

「やっぱり自分の書いたものが世に出て、反応が返ってくるから、大それたことを書いたらよくないんじゃないかなとか。平凡でつまらない文章だったらよくないんじゃないかとか。でも、いったん書いてしまってあとから見直せばいいんですよね、結局は。それに気づかなかった。ずっと」

いくらでも書き直せばいいという、凡人の私たちには当たり前のことにすら気づかないくらい、それまでの綿矢は自分の尋常ならざる才能とただ懸命に向き合い、自分自身を追い込むことで文章をつづっていたのかもしれない。

その山を越えられたのは、特段人生で何かが起きたからというわけでもない、という。「パソコンに向かうある一定の時間を超えたような感じですね。寿司を握り続けた職人が、手元を見なくてもご飯の量がわかるようになるみたいな。それまではきっと見習い期間なんです。文章書くのにも、そういう職人さん的なものがちょっとある気がします」。

小説を読むのが好きな子どもだったから、自然と自分の表現手段も小説になった。

「文章がいちばん伝えやすいかなという感じはあって。映像とかで撮るよりも、ずっと好きなんですよね、日本語。漢字も好きです。日本語フェチ的なところがあるかもしれないですね。逆に英語はめっちゃ嫌いなんですよね。言語のそういう好みはすごい激しいです。

英語教育に熱心な高校に通っていたので、たくさん勉強して、途中までくらいついていたんですけど。活用変化の仕方とか、アルファベットとかが嫌で、そこまで好きじゃないってなってしまって。だから、なんで小説書くかと言われたら、まず日本語がすごい好きというのと、あとはもう、昔は小説が好きだからという理由もあったけど、今はそれしかできないからです」

深刻な悩み「自分で引くんですよ。起きたときの姿に」

そんな綿矢の悩みは、歯ぎしりなのだそうだ。「夜寝るときに悩んでしまうんです。で、朝起きたら両手をぎゅっと握りしめているんですよ。歯も食いしばってて、朝起きた時の自分に引くんです(笑)。こめかみや頭にボトックスの注射打って緩めたりとかしているんですけれど、原因が全然わからないんですよね。それは直していきたいですね」。

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