三谷幸喜が前立腺がんの病歴を明るく振り返る訳 同じ不安を抱える人のために彼は立ち上がった

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三谷幸喜さんが前立腺がんの病歴を公表したワケは?(撮影:今 祥雄)
「本当は、(世間に)言わないで済むならずっと言わないでいたかったんですけれど」。昨年10月、東京慈恵会医科大学泌尿器科主任教授・頴川晋(えがわ しん)との対談集『ボクもたまにはがんになる』(幻冬舎)を出版し、実は50代の働き盛りに前立腺がんを患っていたと公表した、脚本家・三谷幸喜。頴川によって執刀された手術は、あのNHK大河ドラマ「真田丸」の執筆中だった。
術後5年が経過し、現在60歳となった三谷は、2004年「新選組!」、2016年「真田丸」に続く3作目の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(2021年1月9日スタート)に取り組んでいる。「こういう(がんという)プライベートな話を出すのはちょっと自分の柄に合わないので、どうしようかなと思ったんですけれど……」とためらいを見せつつ、「大河ドラマは約2年間専念しなければいけないので、他の仕事が制限される。三谷家の家計のために何か少しでも楽に稼ぐ方法はないかと考えたら『そうだ、主治医の先生と対談本を出そう!』と思いつきまして」などと、真顔で軽妙な笑いを起こすサービス精神はさすがだ。
われわれがテレビや映画で大いに知る、スーツを端正に着こなした喜劇脚本家は、この通り変わらず健在だ。「普段は(がんを)全然意識もしていないです。前立腺がんは怖くないし、もっと明るい感じというか、”がんと闘う、生還する”というイメージを変えたい」。1月放送開始の大河執筆でカンヅメの最中(さなか)にいる脚本家に、異例の60分という貴重な時間を頂戴して聞いた、”がんと、その後”。30年以上に及ぶキャリアで次々と作品を繰り出し、豊かな才能の泉が一向に尽きないように見える三谷の中で、もし変わったことがあるとすれば――。この洒脱な脚本家は、いったい何が変わったと答えてくれるだろうか。(文中敬称略)

言わないで済むならずっと言わないでいたかった

年齢を感じさせない、不思議な魅力の持ち主である。ドラマ「古畑任三郎」シリーズに始まる数々のテレビドラマに映画に舞台にと、1990年代から日本のエンタメの第一線で活躍の脚本家。日本アカデミー賞、ゴールデン・アロー賞、岸田國士戯曲賞、菊田一夫演劇賞に代表される舞台脚本や映画・ドラマ関連賞は言うに及ばず、芸術選奨や紫綬褒章まであらゆる栄に浴し、彼と彼の作品は広く人々に愛されてきた。マスコミに出るときは常にピシッと背筋を伸ばして三つ揃いのスーツを着こなし、そのくせ要所要所で巧みにウィットを発揮して、いつの間にか周囲を三谷ワールドへと引き込んでしまう、そんなイメージだ。

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