三谷幸喜が前立腺がんの病歴を明るく振り返る訳 同じ不安を抱える人のために彼は立ち上がった

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三谷は「自分の中では、なるべく人の人生を変えないようにと考えている」と繰り返した。

「というのも、そんな権限は僕にはないと思っているので。理想は、僕の作品を見て何か生き方を学ぶとか、そんなことじゃなくて、本当にエンターテインメントとして楽しんでいただいて『あー、面白かったね』と。その代わり、相当面白くなきゃいけない。舞台にせよ、映画にせよ、ドラマにせよ、それで満足していただいて、いい意味で忘れてもらえる、心に残らないようなものを書きたいんです」

「でも、それって難しい。よこしまなところがあるもので、どうしてもお話として収まりが悪くなっちゃうから、なんかちょっといい感じで終わらせたりとか、ちょっと感動に持っていっちゃったりとかする。よこしまなんです。だから、例えば、僕のドラマを見て『フレンチレストランのシェフになりました』『刑事になりました』とかって言われると、本当に申し訳なくて。そんなもう、みんなの人生に影響を与えたくないんですよ、僕ごときの脚本家が。責任も取れないし。面白かった、だけでいいんです」

そんな三谷が、「異色の仕事」と呼ぶのが、今回の書籍なのだ。「明らかに人の人生を変えようとしていますからね……」。

言葉の仕事をしているからこそ感じる「言霊」

がんは怖くない、という話の延長で、三谷は「がんの呼び名を『ポン』とか『ガニー』にしよう」と提案している。「前立腺ポン」「子宮ポン」「大腸ポン」。うん、なかなか肩の力が抜けてていい。

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「ポンは本当に前々からいいなと思っていて。というのは、言葉の仕事をしていると、言霊というのを感じるんです。『新選組!』を書いていた時に、新選組のライバルで京都で不逞浪士を取り締まるグループがあって、そっちは『見廻組』って言ってたんですよね。やっぱり言霊的に弱いんですよ『見廻』って。強くなさそう」

「新選組も、京都から戻ってきて、次に『甲陽鎮撫隊』という名前になるんですけど。やっぱり弱いというか、なんか言霊が足りないんですよね、コーヨーチンブタイ。チンブタイですからね」

腕組みして考え込む脚本家の姿を見ながら、迫り来る大河の脚本執筆の最中に、国の宝たる三谷幸喜をこんなことで悩ませてはいけないような気がしてきた。「癌」はどうにも字面がよくない。やまいだれで、口がいっぱいついていて、響きもおどろおどろしい。三谷の提案通り、今後はみんな「ポン」でいくほうがきっといい。

(撮影:今 祥雄)
河崎 環 フリーライター、コラムニスト

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かわさき たまき / Tamaki Kawasaki

1973年京都生まれ、神奈川県育ち。桜蔭高校から親の転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。多岐にわたる分野での記事・コラム執筆をつづけている。子どもは、長女、長男の2人。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。

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