三谷幸喜が前立腺がんの病歴を明るく振り返る訳 同じ不安を抱える人のために彼は立ち上がった
三谷幸喜は、イメージ通りに椅子にまっすぐ座ると「こうやって(がんの話の)取材を受けるのも初めてです。比較的自分の話はしないんです、普段も。自分の口から『がん』や『前立腺』とかいう言葉を発することがないので、こうやって話しているとすごい違和感がありますね。なんか、ものすごく恥ずかしいですね」と、真顔を崩さず照れていた。
本当は、世間に公表せずに済むならずっと言わないでいたかったという。
「もっと言うと、いまさらなんですけど、脚本家として顔出しもしたくなかったくらいなので。僕の中でいちばんかっこいいなと思う生き方は、脚本家で言うと井上由美子さん。なかなか表に出られない方なので、顔はみなさんパッと浮かばないかもしれないけど、作品はとても素晴らしくて。このドラマも面白い、このドラマも面白い。あとで調べると、みんな同じ脚本家が書いていたんだ、井上さんなんだ、みたいな」
僕はもっともかっこ悪い生き方を選んでしまった
「そういうのが僕の中ではいちばん理想的で、自分はもっともかっこ悪い生き方を選んでしまった。そんなに人前に出てしゃべるタイプでもないし、映画の宣伝とかでテレビに出た時は、少しでもお客さんに来てもらうために何かしなきゃいけないと思って一生懸命頑張りますけど、本来の僕はそんな人間じゃないので、ものすごく無理している感はあるんですよね。だから、本当は、作品は作品、自分は自分、みたいなふうに分けたい思いはあるんですけども、なんかそうじゃない生き方になってしまったということですね」
無理していると強調するわりには至って滑らかに喋れてしまうのが三谷のすごいところであるが、『僕もたまにはがんになる』の中で、三谷はこう書く。「僕はコメディ専門の脚本家です。自分の作品で誰かの人生を変えようとか、そんな大それたことは思ったことがありません。これまで、なるべく人に影響を与えないように生きてきた僕ですが、今回ばかりはちょっと違う。この本をひとりでも多く、前立腺がんの患者さん、そしてその家族の皆さんに読んでもらいたい。そしてホッとしてもらいたい。それが僕に与えられた使命、そんなことすら思っています。だからちょっと僕らしくないけれど、思い切ってこんな本を出すことにしたわけです」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら