三谷幸喜が前立腺がんの病歴を明るく振り返る訳 同じ不安を抱える人のために彼は立ち上がった

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術後5年が経つが、三谷はこのがんで「死ぬかもしれない」などとは一度も考えたことがなかったのだという。それは頴川という穏やかで信頼できる主治医と出会ったことが大きい。『ボクもたまにはがんになる』の書籍タイトルが示すように「肩の力を抜いて、深刻になりすぎないことが大事。早期発見が大前提ですけれど」と話す三谷は、死ぬことを一度も想像しなかった人間だけが生き残る、と、生きる確信が持つ力強さを本書の「あとがき」に記している。

作品としてのパワーが上がって「新しい大河ができた」

とはいえ、三谷は現代日本を代表する脚本家として、ずっと第一線で走ってきた。「体力落ちたな、というのは感じますね。大河は体力がいるし、書くのに時間かかるようになっちゃったんです。1回目の時のほうがもっと早く書けていたような気もするし」。体力、それはもの書きとしては切実な問題である。

「僕の理想は、もちろんそんなことできないんだけれども、例えば1時間のドラマだったら1時間で書く。できるだけ本当の会話に近いかたちで書きたいから、1分の会話のシーンがあれば、それを1分で書ければ絶対いい気がするんです。そうはいかないんだけど、それでも昔のほうがもっとテンポアップして書けていたし、今はやっぱり30分書いたらもう肩が痛くなってちょっと休憩とか、眠い時は寝ちゃったりとか。で、30分経って起きて、また書いてみたいな、そんな感じです」

けれど、ずっと書き続けてきた長年の経験値によって、脚本が変化し、磨かれているのを実感するのだともいう。 

「不思議なんです。来年の大河の第1回放送分の完パケができて見たんですけども、僕は体力が当然落ちているのに、今までにやった『新選組!』や『真田丸』に比べるといちばんアップテンポの、テンション高い第1回になっている気がする。それはやっぱり、あの2本をやったうえでの僕の経験値があってこそのものだと思うし、その分時間がかかっているのはかかっているんですけども、作品としてのパワーはすごく上がっている気がしていて。本当は、こんなテンションで『新選組!』が書けたらなと。あの時はまだ手探り状態で、どう書いていいかわからない中で書いていたけど、今はわかっているぶん、新しい大河ができたという感じがすごくあるんです」

「作品だけ見ると、40代、50代、60代で書いたもの、だんだん円熟味を増して落ち着いた作品になるのかと思ったけど、逆になっていますから。それは面白いと思います」。経験値が上がって落ち着くのではなく、逆にテンションもテンポも上がった新しい大河作品が生まれたとは、大人になることが楽しみになる、勇気のもらえる話だ。

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