夏目漱石「こころ」実は恋愛描写は少女漫画のよう 「私」がキュンときて、恋に落ちる理由とは?

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夏目漱石の、意外とロマンチックな恋愛描写について解説します(写真:よっちゃん必撮仕事人/PIXTA)
学校の授業では教えてもらえない名著の面白さに迫る連載『明日の仕事に役立つ 教養としての「名著」』(毎週木曜日配信)の第35回は、『吾輩は猫である』『こころ』などの作者である夏目漱石の、意外とロマンチックな恋愛描写について解説します。
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夏目漱石の小説の、ロマンチックな描写

イギリス留学から帰ってきた夏目漱石は、日本でもうつになっていたことをきっかけに、友人から「小説でも書いたらどうだ」と勧められる。

ちなみに日本でうつになったのは、英文学の教師として東大で教鞭をとっていたところ、学生が自殺してしまい、「あの学生が自殺したのは夏目先生のせいだ」と噂されたかららしい……。そりゃうつにもなるというものである。

そんな契機から始まった夏目漱石の小説家人生であったが、私は彼の小説を読んでいると、なかなかにロマンチックな感性をもっていることに驚く。東大を出て、東大の先生になるエリートだなんて、どんないかつい小説を書くんだ、と身構えてしまうのが普通だ。だが漱石の小説はいつもどこか、ロマンチックだ。

具体的に、漱石の小説を見てみよう。

たとえば『坊っちゃん』。タイトルは聞いたことのある方も多いだろう。この小説は、漱石が松山の中学校に赴任したときの思い出をもとにしたと言われる。主人公の青年・坊っちゃんが、四国にやってきて、数学教師をすることになる様子を描いた田舎のドタバタコメディだ。が、そんな小説のなかでも、ちょっとしたロマンスを入れることを、漱石は忘れない。

駅である美人に遭遇する。その美人を見かけたときの「胸キュン」を、漱石はこんなふうに表現するのだ。

おれは美人の形容などが出来る男でないから何にも云えないが全く美人に相違ない。何だか水晶の珠(たま)を香水で暖ためて、掌へ握ってみたような心持ちがした。
(『坊っちゃん』「ちくま日本文学全集 夏目漱石」筑摩書房)

……ロマンチック! と叫びたくなりませんか。漱石ってこういう描写をする人なのだ。「水晶の珠を香水で暖ためて、掌で握ってみたような心持ち」。なかなか書ける文章ではない。

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