記者クラブの防衛担当記者に軍事報道はできない 大臣発言を検証もせずに報じる新聞メディア

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また筆者が問題提起をした陸自の個人携行衛生品(自衛隊員の命は、ここまで軽視されている)も同じだ。陸自用のキットには包帯と止血帯各一個であり、まったく不十分だと会見でも質問したが、当時の中谷元防衛大臣と岩田清文幕僚長はアメリカ陸軍のものとほぼ同等であると答弁した。

だがアメリカ陸軍のキットは22アイテムから構成されており、質量ともにとても同等とは言えなかった。その後、大野元裕参議院議員(現埼玉県知事)ら野党が中心となって動いて、改善されることになって補正予算もついた。後に防衛省もアメリカ軍に比べて劣っていたことを認めている。これまた保身と組織防衛のために大臣や幕僚長に事実を伝えず、虚偽の説明をしていたことになる。

本来このような当局の発表が事実かどうかを検証、追求するのが報道機関の存在意義だが、それが機能していない。記者クラブが会見だけではなく、多くの取材機会から非会員媒体やフリーランス、特に専門記者を排除して取材が密室化しているからだ。

記者クラブの防衛省担当者は、軍事の素養があるわけではない。新聞社の辞令で配置されており、防衛省や自衛隊のレクチャーなどが事実かどうか検証するリテラシーがない。だから防衛省や自衛隊の説明のまま検証なしに記事を書くことが多い。

記者クラブの会見では「小芝居」が横行

さらに言えば、大臣が不愉快になるような質問を会見ではしない。記者クラブは事前に質問を提出し、これに事務方の官僚が答弁を書き、会見で大臣がこれを読み上げるという「小芝居」が横行している。

諸外国、少なくとも民主国家でこのような茶番を大臣会見と呼ぶ国家は存在しない。こうして当局と記者クラブの「信頼関係」が維持されている。そのために「余計な質問」をする非会員メディアやフリーランス、とくに専門記者を排除している。

筆者が例外的に会見に出られるのは、外国のメディアの記者として外務省の記者証をもっているからだ。それでもわれわれのような記者クラブ非会員は、記者クラブ向けのレクチャーからは排除されている。例えば昨年12月2日、陸幕は普通科(歩兵)個人装備に関する研修会を行ったが、対象は記者クラブのみで筆者らは排除されている。

だが歩兵の個人装備に関して、記者クラブ内で筆者に匹敵する知識と見識を持った記者はいないだろう。実は、陸自の普通科個人装備は途上国からも遅れているレベルだが、そういうことを知らないのだ。筆者であれば、あれこれ突っ込んだ質問もできただろうが、参加した記者は陸幕の説明を鵜呑みにしただけだったのだろう。なお、防衛省報道室はすべての記者は同様に扱っていると主張している。

無論、新聞やテレビといった一般メディアで専門誌ほど詳細な報道をする必要はないだろう。だからといって記者の知識や見識がアマチュアレベルでいいわけがない。記者クラブという制度のせいで、メディアの権力監視と国民の知る権利が阻害されている。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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