中谷防衛相の認識は、陸自の「個人携行救急品」は目を保護するためのアイカップ以外は、ほとんど米軍の装備と同じ、というものだった。大臣は、陸幕や内局の衛生関係者から事実を歪められて説明されているのはないかと思い、筆者は突っ込んだ質問を行った。これに関しては、後日、陸幕広報室から以下のような回答があった。
陸幕広報室の説明は眼球の保護具(アイカップ)以外、ほぼ米陸軍並みというものだ。しかし、これは事実に反している。
米陸軍用のIFAKⅡの構成アイテム数はポーチも含めて18個であり、対して陸自(海外用)の「個人携行救急品」のアイテム数は8個に過ぎない。その差は10個だ。アイカップ以外でもIFAKⅡにしかないアイテム数は9個もある。逆にIFAKⅡにはなく、「個人携行救急品」のみのアイテムが1つあるので、差し引けば両者のアイテム数の違いは8個だ。つまり自衛隊の個人携行衛生品は約半分に過ぎない。この数の違いを見ても、「同等」と強弁するのは無理がある。
米軍が携行しているアイテムの役割
「個人携行救急品」にはなく、「IFAKⅡ」には含まれているアイテムの役割について、個別に見ていこう。
まず、「個人携行救急品」に1個しかなく、IFAKⅡの構成品に2個含まれている止血帯(ターニケット)だ。米軍がIFAKからIFAKⅡへと更新する際に、収納ポーチとセットで止血帯を1本追加したのは、最近の戦闘の様相の研究、1本の止血帯では不充分であったという戦闘外傷の統計分析に基づいている。
防弾ベストの性能向上と小銃の射撃精度向上により、アフガニスタンやイラクなどの武装勢力は防弾ベストによって保護されている上半身よりも、腰や大腿部を狙い撃つようになった。防護が難しい下半身は被弾した場合、歩けなくなる、すなわちただちに行動不能になるうえ、腰や大腿部は致死率が高いためである。
大腿部の銃創、および爆傷による大腿部の離断(爆風で切断されること)の症例に止血帯を適用した際、1本の止血帯では効果が不足したことが判明したため、米陸軍では2本並べてかける方法(Side by Side)が推奨されている。併せて、腰部の銃創について専用の止血器具の装備化や、止血剤と戦闘用包帯を「救命器具」として用いる方法の普及がなされている。
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