中谷元防衛相は「米軍と日本の自衛隊の個人救命キットは大差がない」と説明している。前回の「自衛隊員の命は、ここまで軽視されている」において、それが誤りであることを具体的に説明した。おそらく陸幕をはじめ、防衛省は国会での集団安全保障をめぐる議論に「悪影響」を与えないようにするため、誤った説明を行っているのだろう。自衛隊員の命や手足が無駄に失われないようにするために、その誤った認識を正すのが、この記事の趣旨である。
米軍のIFAKⅡには、我が国では医師法で規制されているものもある。しかし、医師法の規制があることが装備できない理由にはならない。神経ガスの解毒剤自動注射器のように、平時は厳重に管理し、作戦行動開始時に全隊員に交布しているものもあるのだ。
現用の法制にも問題があるが、そのため衛生関連の法案見直しや、諸外国の衛生の実態の視察が本年度予算に盛り込まれているのではないか。陸幕広報の回答のとおりならば、そのようなことを行う必要はなかろう。
映画ではよく「衛生兵!」と叫んで衛生兵(メディック)を呼ぶシーンが多いが、現在の軍隊では実はあまり一般的ではない。それは衛生兵の装備が、心電図や超音波診断装置等のモニター類が中心となり、より高度化、複雑化してその装備を担いで移動することが困難だからだ。多くの場合、メディックのバックパックは脱着式の親ガメ子ガメ式になっている。小さなバックは同行用の携行型で、大きなバッグは患者集合点に開設して使用することが一般的である。
現場での応急手当てが重要
負傷者は衛生兵の周りに放射線状に安置して、ひとりのメディックは最大10名ぐらいまで同時に観察・処置する。負傷した将兵を衛生兵のところまで運び、衛生兵の手助けをするのは歩兵など戦闘職種の役目だ。このため、戦闘職種でも衛生訓練が重視されている。
負傷者を、迅速かつ安全に移送するために、米陸軍では分隊でひとり、折畳式の担架が入った大きなバックパックを背負っている。その分、戦闘力、火力は削がれるが、人命を重視のためには当然のことだ。これまた陸自にはない装備である。このような現実を見れば現場での応急処置が、如何に重要かがわかるだろう。
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