JPTECはひとりの致命的外傷患者に1隊の救急隊、1室の手術室が受傷してから1時間以内に適用できることが前提となっている。戦闘外傷とは状況が大きく異なるものを、現場の中隊長などに自衛隊に適用するよう委ねてしまうのは、あまりにも酷であり、無責任以外の何ものでもない。
先進国の軍隊では、野戦医療の標準化が進められている、NATO諸国間や米軍と豪軍では、前線では同盟国軍同士、前線で同じ質の救急処置や応急治療が受けられるよう努めている。医療大国の日本国にもそれが求められているのではないか。野戦医療の質が現状では国際的な信用は失墜するだろう。
「メディカルラリー」へ取材を申し込んだが…
2015年1月20日に、陸自の衛生学校で「メディカルラリー」と呼ばれる全国の衛生科隊員及び、医療関係者向けの訓練があった。筆者はこの訓練の取材を申し入れたが、広報室から「広報向けの訓練ではない」と拒否された。
実際に見学した消防関係者の話では「JPTECの競技会であり、私たちのしていることと、車や服の色しか違わない。少なくとも、自然災害への対応の何かの参考を得られるかと期待していたが残念」との感想であった。メディアに公開しなかったのは野戦医療訓練をやっていないことを外部の人間に知られたくないからではないか。そうでなければ、何の機密事項もない訓練を拒否する理由が見当たらない。
かつて筆者は、君塚栄治陸幕長時代に陸幕長会見において、なぜ「個人携行救急品」に国内用と国外用があるのか、国内用は不十分でないかと質問した。以前の記事にも記したが、それに対する陸幕広報室の回答は以下のとおりだ。
「(国内用は)国内における隊員負傷後、野戦病院などに後送されるまでに必要な応急処置を、医学的知識がなく、判断力や体力が低下した負傷者みずからが実施することを踏まえ、救命上、絶対不可欠なものに限定して選定した」「国外用は、国内に比し、後送する病院や医療レベルも不十分である可能性が高いため、各種負傷に際し、みずからが措置できるための品目を、国内入れ組に追加して選定した」
この回答を素直に読めば、有事にも国内用キットをそのまま使用するように取れる。この回答は、今回のすべての隊員にPKO用のキットを使用した30~50時間の概要教育を行い、国内有事に備えて国内用に不足しているアイテムを備蓄、有事にはこれを使用するという説明と矛盾している。
ちなみに「個人携行救急品」が初めて調達された平成24年度予算では、国内用キットが約5万セット導入されたが、国外用キットの調達はゼロである。実物がないのにどうやって訓練し、有事に備えるのだろうか。陸幕広報室の説明が正しいのであれば、国内用よりもPKO用を優先すべきだろう。これでどうして有事に対応できるだろうか。
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