自衛官を国際貢献で犬死にさせていいのか 海外派遣の前に考えるべきこと(下)

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自衛官が海外に派遣されて戦闘などを行った場合、現状のままであれば負傷者が出た際の「戦死者」や手脚、目を失う隊員は、他の先進国に比べて非常に多くなることだろう。先進国だけではない。ヨルダンやトルコなど実戦を行っている国々では先進国に近い衛生システムを導入している。陸自の衛生は完全に浮世離れしている。

海外の作戦で死傷者を出す事態が実際に起きて、防衛省、自衛隊は隊員や家族にベストを尽くしたと胸を張って説明できるのだろうか。

30~50時間の訓練は行っていない

さて、陸幕広報室は国内部隊のすべての隊員に対してPKO用のキットで実技を含めた30~50時間の概要教育、実技訓練などを全隊員に行っており、有事に際しては国内用セット加えて、「個人携行救急品」のPKO用と同じものを備蓄しているという。しかし、筆者が聞いたかぎり、そのような訓練を受けた陸自の隊員はひとりもいない。これはどういうことだろうか。

筆者の取材したところ、陸自がおこなっている衛生救急救命訓練は、JPTEC(Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care)である。第12旅団では全員がこれを受講しているが、ほかの師団、旅団では必ずしも行われていないようだ。そもそもこれは、平時の消防の救急隊向けにつくられた標準化教育プログラムであり、軍隊の野戦救急とは異なる。当然ながらPKO用のキットを使用した訓練ではない。

自衛隊の救急法検定では、以下のようになっている。

第1課題「傷病者自ら行う止血等による緊縛止血法」
第2課題「心肺蘇生法」
第3課題「状況下における救急法の手順に基づく救急処置等」

 

だが第3課題の内容は、「各中隊長などが必要と思われることをする」とされている。ということは、中隊長が変わるごとに検定の内容が変わる。中隊ごとに隊員の救急処置能力に差が生じる。最悪の場合、中隊長が「第3課題は必要ない」と思えばしないということだろう。

米国における救命訓練の様子(提供:USMC)

統計上、外傷による心肺停止患者を救命することは99%できない。第2課題は駐屯中か平時の訓練時のためのものであり、戦闘時の内容ではない。

陸自の標準化され、習得が義務付けられているのは、第1課題「止血帯」のみである。このため救急の検定は止血帯のみであり、包帯が含まれず、包帯が巻けない隊員が多いという。先進国が包帯は「救命器具」として踏み込んだ訓練をしているのと大変な差が生じている。これでは有事はもちろん、災害派遣での民間人の手当てにもこと欠くだろう。

戦闘外傷や必要な救急品の研究もしていない、教育もしていない、陸自の「個人携行救急品」は陸自衛生怠慢の象徴である。

陸自内で標準化された戦闘外傷救護教育が存在しないため、仕方なく、日本国標準のJPTECを適用しているのではないか。

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