動物は「ベストな食べ物」を知っている?
1991年、私たちはオックスフォード大学自然史博物館のスティーヴのオフィスで、コンピュータの前に座っていた。
当時私たちは、それまで試みた中で最も大規模な摂食実験を終えたところだった。実験の対象は、これから説明する研究にうってつけの、特別な種類の「バッタ」だ。
この日の話し合いの中で、栄養へのまったく新しいアプローチが生まれることになるとは、このときまだ知るよしもなかった。
私たちはこの研究で2つの問いに答えを出そうとした。
第1に、動物は「自分にとって何が最適か」という基準で、食べるものを決めているのだろうか?
第2に、もし何らかの理由で最適な食餌を摂れず、やむなく別の食餌を摂るとき、どうなるのだろう?
私たちは実験室で、バッタなどの草食性の昆虫が摂取する二大栄養素である、タンパク質と炭水化物の比率の異なる25種類の餌を注意深く作成した。高タンパク質/低炭水化物食(人間でいえば肉に相当)から、高炭水化物/低タンパク質食(米に相当)までの様々な比率の餌ができた。
これらの餌は、成分こそ異なるが、外見は見分けがつかなかった。市販のケーキミックスに似た、乾燥した粉末状で、昆虫はそれを好んでいるように見えた。
それぞれのバッタは与えられた1種類の混合物だけを、脱皮して成虫になるまでの期間、好きなだけ食べることができた。その期間は餌の種類によって異なり、最短9日間から最長3週間までだった。
実際の作業はとても大変だった――苦労して25種類の餌を準備し、200匹のバッタの1匹ずつに与え、それから各個体の毎日の摂取量を綿密に測定する必要があった。
実験期間中、私たちは動物学部棟の奥深くにある、室温32度――砂漠のバッタが生息可能でかつ人間にも許容できる温度――に保たれた蒸し暑く狭苦しい実験室で、永遠にも思える時間を過ごした。
バッタは1本の金属製の止まり木と、0.1グラム単位で測定された餌の載った小皿、そして水皿が入れられたプラスチック製の箱の中で、1匹ずつ飼育された。
毎日バッタの餌皿を取り出し、汚物処理業者のように、餌皿と箱からバッタの糞を丁寧に取り除いた。餌を与える前と後の餌皿の重さを量り、排泄物を分析して、バッタがどれだけの餌を摂食、消化したかを計算した。