バッタの食欲を調べ尽くした科学者が達した答え 「タンパク質欲しさ」に共食いすらしてしまう

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次に餌皿を乾燥機に入れて水分を飛ばし、それから100分の1グラムまで測定可能な電子はかりを使って、もう一度重さを量った。摂食前と後の餌皿の重さの差を測定することで、昆虫がその日どれだけ食べたかを算出し、それをもとにタンパク質と炭水化物の摂取量を正確に知ることができた。

この作業を200匹すべてのバッタについて、脱皮して羽の生えた成虫になるか、その前に死ぬまでの間、来る日も来る日もくり返した。脱皮までに要した日数を記録し、昆虫の体重を量り、脂肪と除脂肪組織がどれだけ増えたかを分析した。

そしてとうとう、スティーヴのコンピュータの前に並んで座り、実験の結果を知るときがやってきたのだ。

だがその結果を理解してもらうために、まずは自然環境でのバッタの生態について説明しておこう。バッタはオックスフォードの地下実験室で暮らしながら進化したわけではないからだ。

NY1週間分の食料を1日で食い尽くす

北アフリカのどこかに2匹のバッタの幼虫がいる。

1匹はひとりぼっちで育った。この地域では何カ月も雨が降らず、ほかのバッタに出会うことはめったにない。彼女はまわりの植生に溶け込むような、美しい緑色の体をしている。単独行動を取り、警戒心が強く、ほかのバッタから離れようとする。それもそのはずで、1匹なら隠れることができても、大きな群れになれば腹を空かせた鳥やトカゲ、捕食クモのいらぬ注意を引いてしまうからだ。

もう1匹のバッタは別の場所で、群れで育った。そう遠くない前に雨が降り、仲間の大勢のバッタとともに豊かな植生を食している。彼女は群れるのが大好きだ。鮮やかな体色をもち、とても活動的で、すぐに集団をつくる。こうした大群は、統制の取れた「マーチングバンド」と化し、ひとたび羽の生えた成虫になれば、飛行する大群となって、アフリカやアジアの広大な地域を移動する。

北アフリカに異常発生するサバクトビバッタの大群は数千億匹におよび、たった1日でニューヨークの全住民の1週間分の食料を食い尽くすこともある。とくに農業地帯に移動した場合の被害は甚大だ。

2匹のバッタは、種が違うわけではない――実際、姉妹だったとしてもおかしくない。

この種のバッタはどの個体も、単独で育つか群れで育つかによって、おとなしい緑のバッタになることも、群れをなす社交的なバッタになることもできる。

1つの相から別の相へ変異するプロセスは、すばやく起こる。孤独相の緑のバッタを群れに入れると、1時間と経たないうちにほかのバッタから離れようとするのをやめて群れに引き寄せられ、数時間もすればマーチングバンドの一員となる。体色もまもなく緑色から鮮やかな色に変わる。

次ページ触れ合うことで「巨大な群れ」になる
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