ここからはスティーヴに話を譲ろう。
私たちの調べていたコオロギは膨大な数に上った。研究仲間のグレッグとパットは、ヤマヨモギが生い茂る地を毎日2キロも北上するコオロギの大群を無線で追跡していた。
これほどの数のコオロギがなぜ行進していたのか、そのヒントを教えよう。
私たちはコオロギの一群が幹線道路を横断する様子を5日続けて記録した。コオロギが車に轢かれると、その真うしろにいるコオロギが立ち止まって死骸を食べた。そして車に轢かれた。
まもなく、くるぶしが埋まるほどの死骸が積み上がり、脂でギトギトした体液を片づけるために、除雪機を手配しなくてはならなかったほどだ。
だが、なぜ草食性の昆虫が、集団自殺に至るまで共食いをしたのだろう? 周囲には豊かな植生があり、食べるものはほかにいくらでもあったのに。
私たちはオックスフォードでのバッタの大実験に使った、乾燥した粉末状の餌を砂漠にもってきていた。この餌を皿に入れて、コオロギのマーチングバンドの前に置いてみた。
その結果起こったことは、多くのことを物語っていた。コオロギは高炭水化物食に目もくれず、タンパク質を含む餌だけを食べたのだ。
すべて「タンパク質欲しさ」ゆえだった
私たちが提供したこのささやかなビュッフェ以外で、コオロギの最寄りの良質なタンパク質源は何だったか?
そう、目の前のコオロギだ。
行進を駆り立てていたのは単純な原理だった。うしろの仲間が前進しているのに、自分だけ前に進まなければ、食われてしまう。他方、目の前の仲間が立ち止まれば、もちろん捕らえて食べることができる。
コオロギの共食いを駆り立てていたのは、タンパク質に対する強烈な食欲だった。
またタンパク質への渇望に関する限り、バッタの習性も同様にむごたらしいことがわかった。
この発見は偶然の産物だった。スティーヴは摂食中のバッタに満腹を知らせる信号について調べていた。ある実験で、スティーヴはバッタの感覚を伝える神経を探し出し、何匹ものバッタの腹の終端から脳までの部分を苦労して切除した。手術が終わると、すべてのバッタを同じ箱に入れて回復を待った。
翌朝見てみると、バッタは1匹残らず、神経を切断された箇所から下の半身を失っていた。バッタは数珠つなぎになって、目の前のバッタの麻痺した下半身を噛み切るとともに、自分の腹部をうしろのバッタに食べられていたのだ。
栄養学の重要なアイデアを試すのに、これ以上うってつけの動物がいるだろうか? 与えられたどんな食品でも平らげるほど貪欲な種といえば、食欲旺盛なバッタの大群をおいてほかにない。だがバッタはそれほど単純でないことも、私たちは知っていた。
なにしろバッタは、タンパク質をはじめとする栄養素の摂取を調整する能力をもっているのだ――たとえそのために仲間を食べる必要があったとしても。
(次回は6月16日配信)
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