CMの概念をひっくり返す「泣ける実録」の凄み 再生30万回のネット動画は何を伝えているか
筆者はこれを最初に見たときに、本当に感動して結構泣けた。一方、冒頭のドキュメンタリーを見てからは、「作り物」に見えてしまった。やはり、リアルなドキュメンタリーの力はすごい。美しいドラマのワンシーンよりも、不器用なドキュメンタリーの方が数倍、力がある。
もちろんこの映像を見たからといって、東京に住んでいる筆者が、東山堂に楽器を習いに行くというのは現実的ではない。多分、集客は岩手県の一部地域だ。電車で何時間もかけて通うようなサービスではない。もし、テレビCMなら地域の人だけが知って終わっただろう。それで必要な集客もまかなえただろう。でも、普通なら一生涯知ることがなかったはずの岩手県の東山堂を知ることになった。日本全国の人々にも知れ渡っている。
時間や場所を選ばないアプローチがもたらす変革
これらの映像は、ネットの動画配信サイト「YouTube」で見ることができる。閲覧はもちろん無料である。ネットのコンテンツは内容がいいと評価されれば、ユーザーがそれをFacebookやTwitterなどのようなSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などで紹介し、広がっていく。リアルな口コミやメールなどで伝わっていくこともあるだろう。さらには本記事のようにメディアに取り上げられて、多くの人が知るところとなる。その輪が、自己増殖的にどんどん拡散していく。
しかも低コストだ。仮に全国ネットのテレビ放送で300万人の目に触れるようにしようとするなら、いったいいくらのコストがかかるか。しかも、数分にわたる映像をテレビCMとして流すことは、まずできない。
インターネットが全国に行き渡っただけでなく、通信環境の改善もあり、ハイスペックな動画(映像)をストレスなく見ることも可能になった。しかもパソコンだけでなく、スマートフォンが爆発的に普及したことで、お茶の間のテレビのように家族向けではなく、ひとりの個人単位にまで情報が届けられるようになった。その時間や場所も選ばない。場合によって国境すら超えられる。
有名タレントを使い、短い時間で慌ただしく商品・サービスや企業・ブランド名を伝えたのではない。まったく普通の人が無言で織りなすドキュメンタリーであっても、ひとつのCMとして成立させられる。東山堂のCMは、これまでのテレビCMとはまったく違う世界観とアプローチなのである。映像広告の世界がこれから少しずつ変わっていく端緒になるかもしれないとさえ、予感させる。
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