しかし情動の働き方はそれと異なる。誘因はもっと漠然としているし(飲み物の見た目や匂いがおかしい)、それから直接引き起こされるのは行動でなく、強弱さまざまな情動(ちょっと嫌だ)である。
すると脳はその情動と、ほかにいくつかの要素(ここ何日も食べ物を口にしていない、近くにほかの食べ物や飲み物はないかもしれない)を考慮して、反応のしかたを「計算」する。
こうすれば、一定の誘因/反応のルールを膨大な数取り揃えておく必要がなくなる。しかも柔軟性が大幅に高まるため、さまざまな反応のしかた(何もしないことも含む)を検討して、熟慮の上で決断を下すことができる。
脳は情動に対する反応を決める際に、複数の要素を考慮に入れる。いまの例では、どれだけ腹が空いているか、ほかの食べ物を探しに行くのがどのくらい嫌であるかなど、いくつかの状況を考慮する。
そこに関わってくるのが理性的な心だ。情動が引き起こされると、事実や目的や道理、および情動的要素に基づく精神的計算によって行動が導き出される。状況が複雑な場合には、このように情動と理性を組み合わせることで、実行可能な正解をより効率的なルートで達成できるのだ。
情動が担うもう一つの役割
高等動物の場合、情動はもう一つ重要な役割を担っている。情動を引き起こした出来事からその反応までのあいだに「遅延」を設けることができるのだ。
そのおかげで我々は、ある出来事に対する本能的反応を理性的思考によって巧みに調節したり遅らせたりして、もっと適切な機会を待つことができる。
たとえばあなたの身体が栄養分を欲しているとしよう。目の前にはスナックの袋がある。反射的に反応するならば、何も考えずにそれをむさぼり食うだろう。
しかし進化によってこのプロセスには1つ余計なステップが挿入されていて、身体が栄養分を欲しがっていても、視界に入った食べ物を自動的に口に入れることはしない。代わりに空腹感という情動を感じるのだ。
その情動によって食べることへと促されるが、この状況に対する反応はもはや自動的ではない。状況をじっくり考えて、スナックは我慢しようと決めれば、夕食のダブルベーコンチーズバーガーのためにお腹を空けておける。
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