コンピュータが「人間のように行動できない」理由 人間の柔軟な行動に「情動」が不可欠である訳

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ニューエルとサイモンは、人間の理性、すなわち思考は、いくつもの反射的反応からなる複雑なシステムにすぎないと考えていた。

正確に言うと、思考は生成規則システム(プロダクションルールシステム)と呼ばれるものでモデル化できるということだ。これは、「もし……ならば、……をせよ」という形の厳格なルールの集まりのことで、全体として反射的反応を生み出す。

たとえばチェスにおけるそのようなルールの1つが、「王手を掛けられたらキングを動かせ」というものだ。生成規則を踏まえれば、我々が何らかの決断を下す方法、ひいてはいくつかの行動に光を当てることができる。

たとえば人は、「物乞いからお金をせびられたら無視せよ」といったルールにある程度無意識に従う。人の思考が本当に巨大な生成規則システムにすぎないとしたら、我々はアルゴリズム的なプログラムを走らせるコンピュータとほとんど違いはないことになる。

しかしニューエルとサイモンの考えは間違っていて、彼らの取り組みは失敗に終わった。

その失敗の原因を解き明かせば、我々の情動系の目的と機能に光を当てることができる。単純なシステムにおいて完全な行動戦略を組み立てるには、どのように生成規則を組み合わせればいいか、考えてみよう。

「生成規則システム」とは?

例として、屋外が氷点下のときに屋内の温度がたとえば21℃から22℃の範囲内に保たれるよう、サーモスタットをプログラムするとしよう。それは次のようなルールを使えば実現できる。

ルール1――温度が21℃未満であればヒーターを入れる。
ルール2――温度が22℃より高ければヒーターを切る。

旧式のヒーターでも最新型のスマートヒーターでも、このようなルールがヒーターの頭脳の土台をなしている。

このような条件付きの命令を組み合わせることで原始的な生成規則システムが作られ、ルールが多いほど複雑な課題を扱うことができる。

たとえば小学生に引き算の筆算を教えるには、「下の数字が上の数字よりも大きければ、上の数字の左の数字から1を借りる」といった10個ほどのルールが必要だ。

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