アメリカが中国に圧勝したフィリピン争奪戦 大統領選勝利から1年、ボンボン・マルコス氏変身の理由
バイデン氏の対応はマルコス氏にとって意外だったはずだ。バイデン氏は上院議員時代、マルコス氏の父の人権侵害を問題視し、レーガン政権の癒着を追及する急先鋒だったからだ。1986年の「ピープルパワー革命」でマルコス一家がハワイに亡命した際も、レーガン政権の厚遇を批判していた。
そのバイデン氏の誘いに応えたボンボン氏は2022年9月の国連総会にあわせて訪米し、最初の首脳会談を行って、同盟関係を確認した。この前後からマルコス氏は「中国がフィリピンの領域を一方的に自国領と言っているに過ぎない」「領土は1平方インチたりとも渡さない」などと強気の発言が目立つようになった。
バイデン政権はその後、カマラ・ハリス副大統領、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官ら閣僚を次々とフィリピンに送り込んだ。なかでもハリス氏は2022年11月22日、南沙諸島への玄関口である西部パラワン島を訪れ、フィリピン沿岸警備隊が所有する巡視船上で「南シナ海で威嚇や威圧が横行するなか、アメリカは同盟国フィリピンとともにある」と演説する「示威活動」を展開した。
自責点を重ねた中国
一連のアメリカの取り込みやマルコス氏の動きに対して、中国も黙っていたわけではない。マルコス氏がバイデン大統領をはじめアメリカ政府高官と会談し、安全保障上の発言や声明を出すたびに、中国政府の報道官が牽制の談話を発表した。
2023年1月にはマルコス氏を北京に招いて習近平国家主席と首脳会談を催し、友好を確認した。5月の訪米直前の4月23日には 秦剛・国務委員兼外相がマニラを訪れ「両国が健全で安定した関係を維持することは地域諸国の共通の願いにかなう」と呼びかけ、つなぎ止めを図った。
にもかかわらず、マルコス政権の対アメリカ傾斜を止められない状況に中国政府はいらだちを隠せない。対立を好まず、八方美人的な性格とされるマルコス氏の変身に驚いてもいるだろう。ここに至るまでに中国側が自ら失点を重ね、墓穴を掘っている面も否定できない。
南シナ海のアユンギン礁付近で2023年2月6日、フィリピン沿岸警備隊の巡視艇が中国の公船から緑色のレーザーを2度照射された。中国側は「レーザー測量機に過ぎない」などと弁明したが、「軍用級」との報道もある。
フィリピンはアユンギン礁で老朽艦船を座礁させ、海兵隊員を駐留させている。巡視船は部隊への補給物資を輸送中で、照射で乗組員が一時、視力を失った。
2023年1月の中比首脳会談で、南シナ海問題は外交と対話で管理すると合意したばかりだったこともあり、フィリピン側は強く反発した。マルコス氏も執務室に黄中国大使を呼んで遺憾の意を伝えた。大統領が駐在大使を呼んで直接抗議するのは外交的に異例のことだ。
アユンギン礁周辺では4月28日、航行中のフィリピンの巡視船に中国海警局の大型船が40メートルまで接近し、衝突寸前となる事案も発生した。レーザー照射も海警局大型船の威嚇行為も沿岸警備隊が動画を公開したことで、フィリピン国民の目に中国の横暴ぶりが焼き付けられることになった。
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