10式戦車は、欠点・弱点があまりにも多い 粛々と進む10式戦車調達の問題点<下>

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今後配備が予定される、装輪戦車とも言うべき機動戦闘車(撮影:筆者)

むろん、コスト削減はきわめて大事であり、10式の開発ではコスト削減が徹底的に行なわれた。その努力と成果は筆者も否定しない。10式の開発にあたって民生コンポーネントの採用や、部品点数の削減などが大胆に行なわれた。だからといって10式の防御力やネットワーク機能が諸外国の3.5世代戦車と同等と主張するのは無理がある。

実際に防衛省技術研究本部(以下、技本)はは、かつて筆者のインタビューに対して「性能と価格をトレードオフした設計、機能のソフトウエア化などが盛り込まれた。性能と価格をトレードオフというのは各機能やコンポーネントに関して技本が陸幕に対して、この部分を高性能にするとこれだけコストが上がります、と説明し、コストを削減するためにあえて高性能化をあきらめ、費用の安い既存の技術やコンポーネントを採用した部分もある」と説明している。

10式戦車にはクーラーがない

その最たる10式戦車はクーラーを装備していない。このため夏場のNBC環境下では、30分も使用できない。防衛省は国産兵器開発に際して、「我が国固有の環境にあったものが海外にないから」ということを開発の言い訳にしているが、「夏場はシンガポール並みに高温多湿になる『我が国固有の環境』に、なぜクーラーを付けないか。それは調達単価と重量の低減のためだろう。クーラーを搭載すれば、クーラー重量とコストがかかるだけではない。電力も余計に消費するので、補助動力装置もより大型(つまり重く、高価になる)にする必要がある。そのぐらい10式の開発と調達は費用と重量の軽減に神経質になっているのだ。

10式戦車の導入は陸自の兵站(へいたん)を圧迫する。現在陸自には約300両の74式、340両の90式、70両の10式が存在するが、先述したように現在の防衛大綱では戦車の定数は300両である。大綱の定数は大綱の最終年までに達成すればいいことになっているので、これから10年近く3種類の戦車が混在することになる。しかも戦車の定数の枠には入らないが、今後、装輪戦車とも言うべき「機動戦闘車」の配備も始まり、事実上、4種類の「戦車」が混在することになる。

10式用120ミリ砲弾。90式では使用できない(撮影:筆者)

90式と10式は同じ120ミリ滑腔砲を使用している。90式用の弾薬は10式で使用できるが、10式の砲弾は威力を高めるために、発射時により高い圧力が砲にかかり、90式では使用できない。

つまり、同じ口径の砲弾を使用する90式とさえ互換性はない。それを解消するためには、90式の主砲を10式と同じものに換装する必要があるが、これまた莫大な投資が必要である。

もっとも重要な点は、4種類の戦車を運用すると、1車種の運用と比べて何倍も高いコストがかかる、ということだ。教育や訓練でも、4種類の戦車とそれぞれの教官が必要で、教育所用の戦車の数と維持費、教官、整備員の人件費も4倍となる。当然ながら兵站も4重に必要であり、部品の生産の効率は単純計算で4分の1となり、生産コストは跳ね上がる。

そもそも、陸自の機甲科の予算で、戦車300両(+機動戦闘車200両)を維持することは不可能だ。諸外国では、旅団規模にすぎない陸自唯一の機甲師団である第7師団を、現状でも予算不足で戦闘可能な状態に維持することさえできていない。

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