「人工肛門ライフ」を漫画で描く31歳彼女の人生 卵巣がん経験で「悲観的だからこそ楽観的になれた」

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手術後に話を戻すと、彼女は人工肛門になった。ストーマ袋に一定量がたまれば自分で中身をトイレに捨てる。ふじあこさんの場合、大体4日程度で新しい袋に交換する。排便の量や状態も個人差があり、メーカーによって毎日交換するものから、1週間程度のものまであるといわれる。

術後の彼女はさんざん泣き暮らしてから、ある日ふと「このままじゃ、何も変わらない」と悟ったときに、かつての経験が生かせた。

「いい意味でも悪い意味でも、『もう、どうでもいいや』って思ったんです。気持ちが吹っ切れると、同じ病気の人や、人工肛門になるかもしれないと怖がっている人たちに、私の経験を伝えることで何か役に立てるんじゃないかって」

彼女はネットで多くのがん闘病記を読み、気分が何度も落ち込んだ経験から、もっとさらりと読める表現として漫画を思いついた。悲観的だった少女時代は1人で本を読んだり、4コマのギャグ漫画を描いたりして、空想の世界で遊ぶことが好きだった。多少は腕に覚えもあった。

「あこにっき」2019年11月29日【人工肛門】冬のタイツ替わり から一部転載

柔らかな筆致の「あこにっき 治療経過発信ブログ」を始めて、つらい体験もクスッと笑えるネタにすることで、自分を取り巻く厳しい現実にも、一定の距離をおいて冷静に向き合えるようになっていく。

職場で学んだ方法で病後の気持ちを整理する

「病気と向き合うことに精一杯で、他人の目を気にしているヒマがなくなった分、自分のことを大切にできるようになりました」と、彼女は語る。

それでも時々モヤモヤする気持ちの整理に役立ったのが、職場で学んだ問題解決法。上司から教わった「なぜ?」を反復して自問自答することだ。

「人工肛門になった当初は、つらいことしか思い浮かびませんでした。ですが、その気持ちから抜け出すために、『なぜ?』と自分に問いながら、現状と課題と解決策を全部書き出してみたんです」(ふじあこさん)

書き終えると、今度は自分で対策ができることと、できないことに分けてみた。すると、対策ができないことは意外となかった。当初は嫌で仕方なかった人工肛門も、実際に使ってみると複数の利点がわかったと話す。

「以前は便秘がちで、トイレで10分間も力んだりしていましたが、今は気づいたら排便は終わっています。便秘とはサヨナラして、もう力むこともないから痔の心配もない。むしろ通勤中でも、テレビを観ながらでも、このインタビュー中でも誰にも気づかれずにできます。だから、すっごく時短になるんですよ」

Zoomごしに笑顔でそう説明する彼女には、返す言葉が見つからなかった。

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