
弓木麻由子さん(仮名・34歳)は奨学金240万円を借りて、東京の専門学校に進んだ女性。リーマンショック後になんとか事務職で就職するも、手取りは10万円台前半だったといいます(写真:Fast&Slow/PIXTA)
これまでの奨学金に関する報道は、極端に悲劇的な事例が取り上げられがちだった。
たしかに返済を苦にして破産に至る人もいるが、お金という意味で言えば、「授業料の値上がり」「親側におしよせる、可処分所得の減少」「上がらない給料」など、ほかにもさまざまな要素が絡まっており、制度の是非を単体で論ずるのはなかなか難しい。また、「借りない」ことがつねに最適解とは言えず、奨学金によって人生を好転させた人も少なからず存在している。
そこで、本連載では「奨学金を借りたことで、価値観や生き方に起きた変化」という観点で、幅広い当事者に取材。さまざまなライフストーリーを通じ、高校生たちが今後の人生の参考にできるような、リアルな事例を積み重ねていく。
奨学金を借りるのは「そりゃそうだよね」と思った
「幼い頃からわたしたち姉妹は、両親から『うちはお金がないからね』と刷り込まれていました」
今回、話を聞いたのは、東北地方出身の弓木麻由子さん(仮名・34歳)。2人姉妹の長女で、地元の公立高校を卒業後、専門学校への進学を機に奨学金を借りた。
「といっても、そんなにお金に困っているわけではなく、塾、部活、習い事には困らず、たまに家族旅行もできます。ただ、父親は転職を繰り返していたせいか、収入が不安定で、わたしと妹が進学した当時は、人材派遣会社の営業部長なのに、給料は30万〜40万円くらい。日々の生活には困りませんが、それほど多いわけではないので、母はずっとパート勤めでした」
両親が学資ローンを組んでくれたおかげで、学費は出してもらえたが、弓木さんが進学したITスキルや簿記を学ぶ専門学校は東京にある。さらに、歳の近い妹も、高校卒業後は仙台の専門学校に進学を希望したため、両親に3つの拠点を回すほどの余裕はなかった。
「だから、奨学金を借りることに関しては、わたしも妹も『そりゃそうだよね』と思ったんです」
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